《茨城・境町の針路 町長選を前に》にぎわい創出
■商店街から町全体に 郊外へバス周遊 波及課題
茨城県境町はバブル期以降、全国の例に漏れず人口減が続いたが、近年は、子育て支援策や手厚い移住・定住策により、社会増になるなど町内に引っ越して来る人が増えている。道の駅整備や全国初となる自動運転バス運行などによって中心部に活気の芽が育ちつつある一方、町全体ににぎわいが生まれるには至っていないのが現状だ。2月1日告示、6日投開票で行われる町長選を前に、町の現状と課題を探った。
「以前は、若い人が町を出て行ってしまい、高齢者ばかりだったが、今は若い人の姿が目立つようになった」。町中心部の商店街で飲食店を家族経営する50代女性は、町の変化を笑顔で語る。
町の人口は、1995年の約2万7千人をピークに減少を続け、今年1月1日現在で2万4072人。当初、町は2020年には2万4千人を割ると見ていたが、新婚・子育て世帯の転入を促す定住促進住宅を18年から毎年建設するなどして、新住民の確保に力を入れてきた。これまでに計6棟108戸の集合住宅を整備し、満室となっているほか、新築の戸建て住宅を貸し出すなどして子育てに必要な環境や支援を充実させた。
住宅整備に加え、町が特に力を入れるのが子育て政策。好調が続くふるさと納税の寄付金と国の補助金を最大限に活用しながら、第2子以降の保育料無料や20歳までの医療費助成、子育て世帯・新婚世帯への家賃補助といった施策を手掛ける。町が取り組んできたこれらの施策は、若者を中心とした移住・定住という結果に結び付き、21年3月までの5年間で319人の転入超過となっている。
また、鉄道駅が存在しない「鉄道空白地帯」という地理的に不利な面を補完しようと、全国初となる自動運転バスを20年11月から運行。全国市町村で最多となる六つの隈研吾デザイン建築物の効果もあり、まちなかに活気が生まれつつある。自動運転バスの運行ルート上にある「道の駅さかい」は、1996年の開業当初、年間売り上げは単体で2億7千万円ほどだった。それが最近は、道の駅内に20年8月にオープンした沖縄県国頭村アンテナショップを訪れる若者やカップルが増加。売り上げも年間8億円以上に達するなど好調だ。
ただ、新住民が増え、町中心部の人の流れが高齢者から若者に変わりつつあるとはいえ、コロナ禍もあり、町全体のにぎわい回復にはまだ遠い。道の駅や隈研吾デザインの施設を起点に自動運転バスで商店街を周遊する新住民や観光客が増える一方、町郊外の同町猿山で飲食店を経営する70代男性は「道の駅の一人勝ちだよ。商店街を外れたお店は恩恵がない」と苦い表情を見せる。
町に新たに定住する子育て世代や道の駅の利用者らをいかにして町中心部から町全体に広げ、周遊させるか。自動運転バスのルート拡充も計画されているが、行政と住民が一体となって議論を進め、挑戦とスピード感を持って取り組むことが活気あるまちづくりにつながるのではないだろうか。