《リポート》水戸特別支援学校、分身ロボ活用の職場体験
■遠隔操作で働くきっかけづくりに
障害があり外出が難しい人でも、遠隔操作で離れた場所でのコミュニケーションが取れる小型の分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用した社会参加への試みが茨城県立水戸特別支援学校(水戸市吉沢町、生徒179人)で始まった。第1回は県立図書館(同市三の丸)で10月に職場体験学習を実施し、生徒が案内業務を担った。同校は、難病や障害などがあっても、働けるきっかけづくりを進めたい考えだ。
オリヒメは、オリィ研究所(東京)が開発したヒトの上半身の形をしたロボットで、高さ23センチ、重さ680グラム、カメラやスピーカー、マイクを搭載し、離れた所からでもタブレット端末を通じて、周囲の様子を見たり聞いたりできる。端末を操作すると、ロボットがうなずいたり、手を挙げたりする動作が可能だ。
▽当たり前へ
職場体験は10月18日から4日間実施し、生徒12人が参加した。初日は高等部2年の寺門拓真さん(17)が、県立図書館内の入り口カウンターに置かれたオリヒメを通して案内業務を担当。
寺門さんは筋力が低下する難病を患い、体を動かすことが難しい。食事は自分で食べることができるが、トイレなどは介助が必要。学校では、手を動かせる範囲で文字やタブレットを操作し、学習に取り組んでいる。
「こんにちは」。学校にいる寺門さんがタブレット端末を使って文字を打ち込み、利用客らに人工音声を使って呼びかけた。端末を操作するとロボットの顔が上下に動き、手を振る。マイカーで訪れた利用客にはロボットの手を動かしながら「駐車券はあちらです」と案内し、精算カウンターに誘導した。
実習後、寺門さんは「ロボットが仕事をしているのはまだ見慣れないが、当たり前の光景になってほしい」と話した。
▽就職に多い障壁
重度障害の生徒が多い同校は、卒業後、8~9割の生徒が福祉施設へ入所する。そのほかの生徒は、就労移行支援施設で2年間仕事で必要なスキルなどについて学ぶが、就職は難しいのが現状だ。
同校進路指導主事の阿久津百子教諭は「就職したくても、できない子が多い」と話し、トイレ介助が必要だったり、通勤が難しかったり、バリアフリーが未整備な点を指摘する。
オリヒメ導入のきっかけは5年前。県の特別支援学校教員らが集まる研究会の講演で、開発者の吉藤オリィさんを講師として招いた。当時、オリヒメを活用していた教育現場の例はわずかだったが、阿久津教諭は「導入すれば子どもたちの未来が開けるかもしれない」と感じた。
今年7月、同校教員3人で導入していた八王子特別支援学校(東京)を視察。体育の授業で乗馬体験に参加できない生徒が、ポニーの背中に乗せたオリヒメで、揺れる目線や馬の背中の雰囲気を体験していた。また、同研究所が昨年6月、都内に開設した分身ロボットカフェ「DAWN」にも訪れ、ロボットが接客する様子も見学。オリヒメの使い方や運用の仕方、障害のある人の働き方などを学んだ。
▽修学旅行にも
同校は今後、修学旅行に参加できない生徒の代わりにオリヒメを持参し、疑似体験できるようにする予定。
オリヒメは、本体ロボットとマイク、受信用機器の3カ月のレンタルで13万6千円。同校の体験学習は、同校60周年イベントのPTA会費予算から捻出したが限度がある。継続的な運用には資金が必要だ。
宮山敬子校長は「重度障害があっても、働ける可能性はあると社会に伝えるためには、継続していかなければ」と訴える。オリヒメ活用を県全体に広げ、資金の協力者や寄付団体を募りたい考えだ。