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《連載:23年統一地方選 茨城県美浦村の課題》(上)戦争遺跡見えぬ活用 地域の機運どう盛り上げ

鹿島海軍航空隊跡地に残る施設群の公開に向けて準備を進めるプロジェクト茨城の金沢大介さん=美浦村大山
鹿島海軍航空隊跡地に残る施設群の公開に向けて準備を進めるプロジェクト茨城の金沢大介さん=美浦村大山


霞ケ浦ほとりの茨城県美浦村大山の一角に、太平洋戦争の戦没者を祭る記念碑がひっそりとたたずむ。78年前、村には旧日本海軍の水上機操縦や特攻隊の訓練を担った鹿島海軍航空隊があった。跡地の建物は今なお当時の姿を色濃く残し、独特の雰囲気が漂う。跡地について議論してきた村は2年前、保存に向けてかじを切った。

■公園整備
同航空隊は1938年、阿見町の霞ケ浦海軍航空隊から水上班を移転して生まれた。約27ヘクタールの敷地に飛行機格納庫や兵舎、滑走路など約90施設があった。現況は国の研究施設や防災拠点、村・民有地で、施設のほとんどは取り壊された。

終戦後、東京医科歯科大が建物を利用して予科と分院を開設。97年に閉院して以降、3階建ての庁舎と旧式のボイラーがある汽缶場、自力発電所の3棟が残る跡地約4ヘクタールは、20年近く放置された。村は2年前「大山湖畔公園」として整備すると決定。筑波海軍航空隊(笠間市)を管理する会社「プロジェクト茨城」を指定管理者とした。

■住民の関心
「笠間の時のように多くの方の関心と声を集め、なぜ戦跡を残す必要があるのかを世の中に問いかけていきたい」。プロジェクト茨城の金沢大介代表は力を込める。剥がれた屋根や天井の水漏れは補修できておらず、耐震工事も未実施と課題もある。集客実績を積み重ね、文化財登録や建物の補修の気運も高めていく。

金沢さんらは昨年、園内の整備のためクラウドファンディングを実施。5月には園内の一部限定で見学会を開き、今秋には同所でロケ撮影した映画とのタイアップイベントも予定する。

一方、跡地について村民の関心はいまひとつだ。「心霊スポットとして有名で怖い」「陸平に比べ村の遺跡という感覚がない」といった声も上がる。金沢さんらは「遺跡を地域のボランティアの活動拠点にしたい」と見据え、村に観光の受け入れ体制の充実や住民との橋渡しを求めている。「遺跡に負の感情を持つ人にとってわれわれは望まれてないかもしれない。遺跡を地域全体で盛り上げられる仕組みを村と作りたい」と話す。

■歴史の伝承
村は2020年度、跡地の本格的な測量や建物の劣化具合を調べた。調査に携わった筑波大の伊藤純郎教授(近現代史)は、「鹿島海軍航空隊跡地は基地一帯が面的に残っており、全国的にも貴重」と評価する。

ただ、活用に向けた村の動きは鈍い。村は総合計画の中で、跡地や近隣の公園を含む霞ケ浦南岸地域を観光拠点にする方針やフィルムコミッションの推進をうたうが、航空隊と跡地に対する歴史的評価や長期的な活用ビジョンを示してない。文化財としての調査もまだだ。伊藤教授は「残すも壊すも賛否両論あるのが戦争遺跡。それでも残すと決めた自治体の多くは遺跡を歴史の文脈に位置付け、長期的な活用方針を策定している」と指摘する。

今年は戦後78年。戦争体験者が減っていく中、物言わぬ戦跡との向き合い方が一層問われる。村担当者は「映画やドラマのロケ地として村内外の関心を高めるとともに、平和教育の場にしていく」と力を込めた。

18日告示、23日投開票で行われる美浦村長選を前に、村の課題を探った。



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