DC教育で次世代人材 茨城県内モデル校「使い手」育成
子どもがインターネットの公共空間で責任を持って行動する方法を学ぶ「デジタル・シティズンシップ(DC)教育」が県内の中学高校で始まった。モデル校の生徒たちがデジタルの適切な使い手となり、情報通信技術(ICT)で地域の課題解決に取り組む。県教育委員会は次世代のIT人材の育成につなげたい考えだ。
「どの写真がフェイク(偽物)か分かりますか」。パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスとイスラエル軍の戦闘で、がれきの中で涙を流す子どもや、町中が火の海となっている写真4枚を大型モニターに映し出した。生徒が答えた後、亀田陽介教諭が明かした。「全てフェイクです」
同県龍ケ崎市平畑の県立竜ケ崎一高で11月27日、DC教育の公開授業が開かれた。中学と高校11校の教員が見守る中、1年生40人が3人ずつに分かれ、人工知能(AI)が作成した画像のメッセージの意図やバイアス(偏見)の存在について学んだ。
生徒はAIで偏りが生まれる理由やバイアスに立ち向かう方法について議論。「社会に存在する偏見や多数の意見が反映されている」「世界であふれる情報を多面的に見なければいけない」といった意見が出された。
亀田教諭は「疑わしいものは信じず、生成された結果に社会の偏りの可能性を意識することが大切」と説明した。
県教委は6月、DC教育推進事業を本格的に開始した。モデル校として水戸一高・付属中、IT未来高、竜ケ崎一高、下妻一高付属中、古河中等教育学校の5校を選んだ。
各校は県内外の企業から活動費の協力を得て、地域の課題を調べ、デジタル技術を使った解決方法を探る。地域イベントの魅力を発信するウェブサイトの作成や、授業の時間割の変更を全生徒に知らせるためのアプリなどを作る。来年1月には成果発表会を開き、情報を共有する。
デジタル空間の市民教育であるDC教育は1990年代以降に欧米で発展してきた。「優れたデジタル市民になるために必要な能力を身につけることを目的とした教育」を指す。
以前のICT教育はインターネットの危険性を強調し、利用を制限する傾向にあった。だが、ICTが生活に浸透。従来の教育では子どもたちがデジタル環境の変化に対応できないとの見方が増す。
小中学生にパソコンやタブレットなどデジタル端末を1人1台配備する「GIGAスクール構想」に伴って、DC教育は広がりを見せる。
国内のDC教育の第一人者であるメディア教育研究室(鳥取市)の今度珠美代表理事は「子どもたちが、インターネットという公共の場での作法や振る舞いを学ぶことが目的」と強調する。
「情報を疑うだけでは不十分。正確な知識を持って分析する必要がある」と主張。その上で「責任を持ってICTを活用できる力を学んでもらいたい」と期待を寄せる。
国は2022年、次期学習指導要領にDC教育を各教科で推進する方針を示している。森作宜民県教育長は「将来のデジタル社会の一員になるために、より実践的なものにしていきたい」と話した。