写実絵画の変遷たどる 茨城・笠間日動美術館 高橋由一「鮭図」や現代の名品
緻密な描写で写真と見間違うほどのリアルさを持つ写実絵画。茨城県笠間市の笠間日動美術館では、「日本初の洋画家」と言われ、写実表現を確立した高橋由一(ゆいち)(1828~94年)の没後130年を記念し、写実絵画の変遷をたどる企画展が開かれている。由一に代表される明治期の写実絵画、現代作家による名品、写真をベースに新たな可能性を模索するポップアートなどが一堂に並ぶ。
本展タイトルは、「絵筆がとらえる真実 レンズでさぐる世界-絵画と写真 表現の探求-」。写実絵画の魅力を幅広く伝えようと企画された。「明治の写実」「現代の写実」「モダンアート」の3章で構成し、写実絵画の確立に尽力した明治期の作家から、写真を軸にした現代アーティストらによる約80点を集めている。
「明治の写実」では、幕末に来日したイギリス人報道画家、チャールズ・ワーグマンの下で油彩画を学んだ由一をはじめ、同じくワーグマンに師事した五姓田(ごせだ)義松(よしまつ)、川村清雄(きよお)らの作品が並ぶ。
由一の「鮭図」は、複数存在する同名絵画の一つ。魚のうろこなど細部に至る迫真的な描写が特徴だ。半身が切り取られ、木の板に描かれていることでだまし絵のようなリアルさがある。
「現代の写実」では、昭和期以降の作家11人が名を連ねる。陶山(すやま)充(みつる)氏はパリの建築物をモチーフにしたアクリル画2点を出品。「ノートルダム大聖堂」は、写真に見られるゆがみがなく、塔のてっぺんから聖堂の窓枠まで建物全体が緻密な筆遣いで描写されている。
「モダンアート」では、内面に潜む超現実世界をリアルさをもって表現したサルバドール・ダリを筆頭に、ポップアートを代表する画家、ロイ・リキテンスタインら著名アーティストの作品がそろう。
存在感を放つのが、ニューヨークを拠点に活動するヴィック・ムニーズの作品「FAMILY、AFTER FOUJITA(REPRO)」。藤田嗣治(つぐはる)「室内(妻と私)」(1923年、同館所蔵)をモチーフにしている。日本の浮世絵や能面、フランスの絵画や彫刻などのイメージをコラージュし、全体を撮影後に印刷した。藤田の絵画と同様に、東洋と西洋の融合が試みられている。
ほかに、広告写真を中心に活動する海老原豊さん=笠間市、ドローン映像でも注目されている小曽納久男さん=水戸市=の写真も展示している。
同館の長谷川翠学芸員は「写実表現の先駆けとなる明治の絵画から、写真を利用した現代のポップアートまで、表現の移り変わりを楽しんでいただければ」と呼びかけている。
3月10日まで。月曜休館。2月12日は開館。同館(電)0296(72)2160。