高次脳機能障害に理解を 家族会が法整備要望 支援体制構築へ機運醸成 茨城
脳の病気や交通事故による後遺症で記憶や行動に支障が出る高次脳機能障害に対する支援法制定を目指し、家族会が要望活動などに取り組んでいる。外見では分かりにくい患者もいる「見えない障害」で、周囲の理解が得られにくく、介護する家族も疲弊。茨城県内の家族会は県に対し、法制化に向けた後押しを望む。
■周知進まず、介護手探り
高次脳機能障害は、脳卒中や交通事故で頭部を損傷したことによる後遺症の総称。新しいことを覚えられなかったり、集中力が続かなかったり、怒りやすくなったりするなど対人関係に支障を来す。後遺症の種類や重さは傷ついた脳の場所で異なり、症状は人それぞれだ。見た目では分かりにくい人もおり、周囲の理解が欠かせない。厚生労働省の推計では全国に約32万7千人いるとされる。
守谷市、本田孝男さん(64)の妻・恵子さん(63)は7年前にくも膜下出血で倒れ、一時は意識不明に陥った。現在は日常生活を送れるものの、高次脳機能障害と左足のまひが残った。
恵子さんは以前、料理好きでボランティアにも精力的に参加し、車で年中外出するほど活発だったが、病後は一変した。孝男さんは「見た目は変わらなかったが、性格はがらりと変わってしまった」と印象を語る。
恵子さんには複数の症状が出た。何をするにも時間がかかった。簡単な料理にも数時間を要した。トイレに行きたくても約30分動けない。段取りが立てられない「遂行機能障害」とされ、恵子さんは「やろうと思っても動かない。エンジンがかからない」と語る。
外出先では突然、大声を発した。スーパーでお目当ての商品を見つけると、周囲を気にせず「あったー」と叫んだ。アニメ番組を好むようになり、テレビ画面に向かって大声を出す。これらの症状は、感情がコントロールできなくなる「社会的行動障害」とみられる。
恵子さんは数年前から「私、変かな」と自身の障害を認識し始めた。「自覚したら、気持ちが楽になった」とも話す。
妻を支える孝男さんは、親族に症状を説明しても十分な理解が得られず、精神的に追い込まれた。介護生活は手探り状態で、「一生懸命努力しても空回り。退院時に支援の情報が欲しかった」。県内の家族会「高次脳機能障害友の会・いばらき」も自身が調べてたどり着いたという。
当事者や家族の支援体制を整えようと、全国各地の家族会が法整備に取り組み、要望活動やシンポジウムなどで機運を高める。法制定は与党内でも議論されており、家族会は国会への働きかけも準備中だ。
制定を目指す「高次脳機能障害者支援法」の詳細は固まっていないものの、国や自治体の支援、国民の理解、家族支援などを盛り込んだ2005年施行の発達障害者支援法が参考になるとみられる。
同会の滝沢静江会長は「発達障害の周知が広まり、法律の力を感じた」と法制化の意義を語る。その上で「国が制度をつくることで支援体制の地域格差がなくなり、本人や家族が孤立しなくなる」と強調。今後も、要望活動を続ける方針を示した。