《リポート》働き方改革、離職率減 まつやま保育園 茨城・守谷
■ICT積極導入 環境整え質向上 取り組み10年
保育士の働き方改革を進め、保育の質向上と離職率の減少につなげた保育園がある。社会福祉法人「山ゆり会」が運営する茨城県守谷市本町の「まつやま保育園」は、情報通信技術(ICT)の導入やキャリアパスの提示などを積極的に導入した。同法人の松山圭一郎本部長(45)は「子どもや保護者はもちろん、保育士にも心地よい保育園を目指している」と語る。
▼園児に集中
4月中旬、まつやま保育園の園庭では暖かな日差しの中、子どもたちが思い思いに遊んでいた。その姿を傍らに寄り添う保育士たちがスマートフォンで写真に収めていく。
約130人が通う同園は27人の保育士全員にスマートフォンを貸与し、写真撮影や連絡帳アプリへの記入などに活用する。給食費や延長保育料など、現金での集金は全てキャッシュレスにするなど、業務のICT化を進めた。松山本部長は「事務作業などの手間を省くことで、保育士が子どもたちにより集中できるようにしたかった」と話す。
▼待遇を改善
保育士がキャリアプランを立てやすいようにと、持つべきスキルや経験、得られる見込みのある収入の目安を明文化したキャリアパスも提示する。さらに年に数回、園長らとの面談も行い、一人一人にフィードバックを行う。
保育士歴14年目で、同園サブリーダー(副主任)の吉田裕香さん(34)は「面談やフィードバックのおかげで振り返りができ、自分のよさや課題に気付ける」と話す。
同園ではこうした〝改革〟を2013年ごろに始めた。それ以前は、休暇が取りにくかったり、膨大な業務に追われたりと、保育士が働き続ける環境が整っていなかったという。一般企業に勤めた経験もある松山本部長は保育士の待遇を改善したいと決意。改革に乗り出した。
当初は反対や戸惑いの声も少なくなかった。手書きが当たり前だった連絡帳は、スマホ入力になったことで「慣れない」などの意見が上がった。松山本部長は「皆の意識を変えることが大変だった」と振り返る。
現在は「手書きもよかったが、スマホでさっと記入できるようになり、効率的」「写真も撮りやすくなった」など、歓迎する声が聞かれるという。
▼プライスレス
改革の結果、同園を含む、同法人が運営する守谷市と同県龍ケ崎市の五つの保育園全体で、スタッフの離職率は13年度には17.70%だったのに対し、22年度には4.10%にまで減少。国の定める配置基準の約1.5倍もの保育士を確保できるまでになった。こうした取り組みが評価され、リクルートが主催する「GOOD ACTIONアワード」も受賞した。
松山本部長は「賃金では都市部にかなわない分、働きやすさや保育の質といったプライスレスの部分を磨く必要がある。これからは、社会や時代の変化とともに(保育現場も)変わっていくことが大事」と話した。