《リポート》ソメイヨシノ代替の波 伝染病や温暖化影響 茨城県内 早咲き、類似品種注目
サクラの代表的な品種、ソメイヨシノに世代交代の波が押し寄せている。感染すると花が咲かなくなる伝染病「てんぐ巣病」のまん延により、一部の農場がソメイヨシノの生産を中止して、病気にかかりにくい類似品種のジンダイアケボノを推奨。温暖化で開花期が安定しないことも影響し、見頃の長い早咲きのカワヅザクラなど、代替として多様な品種が注目されるようになってきた。茨城県内でも樹勢が衰えたソメイヨシノから別の品種に植え替える動きが出始めている。
▽病気に強い
「あと5年もすればソメイヨシノに負けないくらい見応えあるサクラになるはず」。NPO法人梨想の会(同県筑西市関本肥土)の横島正利さんは言葉に力を込める。約5年前、関東鉄道常総線の黒子駅(同市辻)に、ジンダイアケボノを約20本植えた。黒子駅は大戦中から地元住民に親しまれてきたソメイヨシノの名所だが、近年は樹勢が衰弱。枯死した時のことを考え、補植を決めた。ソメイヨシノを補植しなかった理由について、横島さんは「ジンダイアケボノのほうが病気にかかりにくいと聞いた」と説明する。
同会にジンダイアケボノを配布したのは「日本花の会」(東京都港区)。サクラの苗木の無償配布や販売を行う公益財団法人で、同県結城市の農場から全国に年間約3万本の苗木を出荷している。
ジンダイアケボノはソメイヨシノ系の品種で、原木が神代植物公園(東京都調布市)にあることから名付けられた。ソメイヨシノより花の赤みが強く、成長がやや遅いが、開花時期が近く、花や木の形は似ている。
同会はソメイヨシノを希望者に無償で配布していたが、全国でてんぐ巣病の被害が確認されたことから生産を停止。2005年以降は、ソメイヨシノに代わる病気に強い品種として、ジンダイアケボノを無償配布している。
▽樹齢50年以上
全国各地のソメイヨシノは樹齢50年以上のものが多く、生育環境によっては樹勢が衰える時期に当たるという。ジンダイアケボノは衰弱したソメイヨシノの代替として徐々に浸透。新たなサクラの名所をつくる際にも選ばれるようになった。県内でも20年、同県龍ケ崎市高須町のふるさとふれあい公園に100本が植えられた。同会がこれまでに出荷したジンダイアケボノの本数は約8万本になるという。
近年では温暖化でソメイヨシノの開花期が安定しないこともあり、早咲きで見頃の長いカワヅザクラの人気が上昇。ほかにもさまざまな品種に目が向けられるようになった。
同じく苗木の無償配布を行う公益財団法人「日本さくらの会」(東京都千代田区)の担当者は、「これまでソメイヨシノが8割を占めていたが、ここ10年で4割ほどに減り、他品種の要望が増えた」としている。
▽先人の思い
一方、ソメイヨシノにこだわりを持つ名所もある。同県日立市は衰弱したソメイヨシノの植え替えとして、市かみね公園にはジンダイアケボノを、平和通りにはこれまでと同じソメイヨシノを選んでいる。
JR日立駅と国道6号を東西に結ぶ平和通りにはソメイヨシノ約120本が立ち並び、「日本さくら名所100選」に選定されているが、樹勢の衰えが顕著な木が目立つため、市は18年度から計画的に植え替えている。
市さくら課の担当者は、「かみね公園はさまざまな種類のサクラを楽しめる場所にしたいが、『平和通り』は違う」と強調。「鉱山の煙害克服のためにサクラが植えられた歴史がある。先人の思いを継承するためにも、昔からあるソメイヨシノを植えている」と植栽された背景の重みに自負を持っている。