《パリ五輪》森「楽しさ」貫く 伸び伸び、最後まで Sクライミング 女子複合4位
10日のスポーツクライミング女子複合で、茨城県つくば市出身の森秋彩(あい)(20)=筑波大3年、県山岳連盟=は4位となった。長年通う地元のジムを心のよりどころに臨んだ初の五輪の舞台。「悔しかったけど、伸び伸びと楽しく登れた」。「天才少女」と呼ばれた若きクライマーは、最後まで自分らしさを貫いた。
森がクライミングを始めたのは小1の時。父親に連れられて自宅近くにある同市下原の「スポーレクライミングジム」に通い始め、とりこになった。「負けず嫌いで諦めが悪く、ずっと壁にしがみついていた」。店長の青木達哉さん(39)は、いずれ世界に出て行くと確信していた。
やがて大会に出場するようになると、ますますのめり込んだ。他の子がおしゃべりをしている間もマシンのようにリードの練習を続けた。努力が実を結び、中学生でトップ選手の仲間入りを果たして「天才」と注目されるようになった。
日々の練習だけでなく、大きな国際大会前の調整に訪れるなど、慣れ親しんだジムは森にとって今も大切な場所だ。常連客の中に交じって黙々と練習に取り組み、ジムがイベントを主催すると時間がある限り参加する。そんな等身大の姿は、五輪選手と感じさせない親しみがあるという。
周囲の期待を背負い続けていることを気遣う青木さんに「むしろその方が力が出せるんです」と返した森。決勝後は大会を振り返り「独特な雰囲気にのまれそうな時もあったが、最後は自分らしい登りで終わることができた」と語った。
■「感動ありがとう」 つくばのジム、大声援
森秋彩のメダル獲得を後押ししようと、「スポーレクライミングジム」で10日、地元ファンが声援を送った。森は得意のリードでは1位だったが、ボルダーの苦戦が響き4位。メダルには届かなかったが、終了後は「よく頑張った」「感動をありがとう」と健闘をねぎらう声が聞かれた。
この日は同ジムにライブビューイング(LV)会場が設けられ、クライミング愛好者ら約50人が集合。手製のうちわを振りながら声援を送った。
前半のボルダーでは、斜面に設置されたホールド(突起物)の間隔が広く、小柄な森は苦戦。しかし、四つの課題の一つを粘り強くクリアすると、会場からは「おー、すごい」「さすが秋彩ちゃん!」と拍手が湧き起こった。
ボルダー終了時点では8人中7位だったが、リードが森の得意種目と知るファンたちも多く、「絶対に完登してほしい」と巻き返しに期待を寄せた。
森はファンの声援に応えるように次々と壁を登り続け、会場は「いける、いける」「がんば!」の声援で後押し。最後のホールドに手をかけたところで惜しくも落下したが、ファンたちは森らしい登りに「よくやった」と大きな拍手を送った。
後続のライバルが得点を重ね、森の五輪初挑戦はメダルには届かなかった。
高校生の次女がクライミングをやっているという同市、村越智之さん(51)は「いつも通りの登りだったが、それ以上にライバルがすごかった。本人は力を出し切れたのではないか」と話した。
クライミングを通じて森と交流がある、かすみがうら市の中学1年、豊崎ほのかさん(13)は「秋彩ちゃんは憧れの存在。次の五輪を目指して頑張ってほしい」と話した。