昭和の暮らし 人形で 安部朱美さん、作品展70点 ちゃぶ台囲む家族や子どもしかる大人 茨城県立歴史館
昭和の家族をテーマにした作品で知られる創作人形作家、安部朱美さんの作品展が、茨城県水戸市緑町の県立歴史館で開かれている。母親からバリカンで丸刈りにされる子どもや、ちゃぶ台を囲む3世代の大家族など、かつて「当たり前」だった風景を題材にした作品約70点を展示。丹念な技で仕上げられた人形の表情やしぐさは、深い絆の中で営まれた温もりある暮らしを伝えている。
安部さんは1950年、鳥取県生まれ。30歳を過ぎて趣味で人形作りを始めたところ、その奥深さに魅せられ、独学で技術を身に付けた。昭和の家族をテーマに据え、粘土や和紙を素材に創作を続けている。2007年の全国規模の創作人形公募展では、幼子に読み聞かせをする母親を題材にした作品「かあちゃん読んで」が大賞を受賞。同作品は国民読者年(10年)のポスターとなった。以後、安部さんは国内で巡回展を開くほか、パリや台湾などでも作品を発表している。
本展は、昭和30~40年代(1955~74年)ごろの民俗にスポットを当て、家族や友だち、地縁といったつながりの中で営まれた暮らしの風景を表現した。安部さんは「昭和という時代を人形に語らせたいという思いで作った。物や情報があふれ過ぎて人との触れ合いが希薄になる中、作品を見て心のふるさとを感じ、ほっこりしていただければ」と話す。
前出の「かあちゃん読んで」(2007年)は、一冊の本をめぐる母子の強い絆を伝えている。3世代家族を題材した「ちゃぶ台囲んで」(09年)は、小さなちゃぶ台で食事をとる家族の表情が味わい深い。孫に向ける祖父母の温かなまなざしが印象的だ。「カミナリおやじ」は、いたずらをした子どもとそれをしかる近所の男性を表現。他人の子どもであろうと手を上げて注意する男性の真剣な表情は、時代のある側面を表している。
市内から訪れた教員の男性(62)は「人形の表情やしぐさが素晴らしく、体温を感じる。人と地域のつながりがあった昭和の時代はよかったですね」と感慨深げに話した。
会期は9月16日まで。同館(電)029(225)4425。