湧水、大気 温度差で発電 産総研と茨城大が装置
産業技術総合研究所(産総研、茨城県つくば市)と茨城大の研究グループは、地表に湧き出た湧水に浸すだけで発電できるシステムを開発した。水力発電のような水の流れが不要で、湧水と大気との温度差を生かし夜間や日陰でも発電できる。水質データも収集でき、管理コスト削減につなげる。
開発したのは、産総研の天谷康孝博士と井川怜欧(れお)上級主任研究員、同大大学院の一ノ瀬彩助教の3人。論文はエネルギー環境工学関連の学術誌に掲載された。
研究グループによると、湧水の温度は地表の温度変化の影響を受けにくく、年間を通してほぼ一定。大気との間には常に温度差がある状態で、この温度差を電力に変換する「熱電発電」の仕組みを活用した。
3人が開発した「湧水温度差発電装置」は、熱を吸収したり、放出したりする円柱形の銅棒に、熱交換で発生した電気エネルギーを増幅させる発電機「熱電モジュール」を巻き付けたもの。夏は大気から、冬は湧水から熱エネルギーを取り込んで反対側に熱エネルギーを排出し、その際に熱交換による発電を行う。
開発に向けた実験は2022~23年、豊富な湧水で知られる長野県松本市で実施。その結果、1日の平均発電量は1.1ミリワットから多い時で14.5ミリワットだった。
蓄電装置を付けて電力を安定供給し、温度計で測定した水温データをスマートフォンに無線で送信することにも成功した。これらのデータ収集は湿度や圧力計測にも応用可能で、水質変化などの早期発見にもつながるという。
井川主任研究員は「地下水の情報収集や分析は時間やコストがかかる」とした上で、「展開方法を広げてうまく活用できるのでは」と語った。
同市では湧水が観光資源となっており、研究グループは今後、同装置が街になじむデザインを研究し、人々に見える形で観光案内やライトアップなどの活用方法を探る方針。
天谷博士は「産業応用とまちづくり両方の視点からさらに研究を進めたい」と話した。