大洗町 洪水回避へ集団移転 堀割・五反田地区 72戸、市街地に 茨城
茨城県大洗町は本年度、国の「防災集団移転促進事業」を活用し、堀割・五反田地区のうち、災害危険区域に含まれる72戸全てを市街地の空き地などに移転させる事業に乗り出す。同地区は涸沼川沿いにあり、台風や大雨でたびたび浸水被害に見舞われてきた。2034年度の完了を目指し、本年度は8世帯が移転する計画だ。
国土交通省によると、災害が起きる前の「事前防災」として、今回のような大規模の世帯が既存の市街地に移転するのは全国で初めてという。
同町北部の堀割、五反田周辺は堤防のない涸沼川右岸沿いに道路が走り、内陸側に住宅や事業所が並ぶ。那珂川との合流地点に近く、逆流して水があふれやすいため、10年に1度ほどの頻度で氾濫を繰り返してきた。19年10月の東日本台風でも約100棟が浸水。町ハザードマップで洪水浸水想定区域に当たる。
今回移転対象となった災害危険区域は、東日本台風の洪水被害を参考に、床上浸水の危険が高い72世帯を含む約6万7000平方メートル。移転先は、同町磯浜町の町立大洗小から半径2キロ圏内の市街地に点在する空き地で、津波や洪水のハザードエリアは除く。
東日本台風を受け、国は20年1月、那珂川の緊急治水対策プロジェクトを発表。この中で集団移転の効果を示し、堤防などのハード整備より「即効性のある事前防災」として大洗町を含む茨城、栃木両県の4自治体に検討を促していた。
集団移転に当たっては住民の合意形成がハードルだった。町は21年3月に地元説明会で集団移転を説明して以降、聞き取りや住民間の意見交換の場を設け、「移転反対」はなかったという。
今年6月末、町の事業計画に国交相が同意。これを受け、町は各世帯の移転に伴う補償額の調査を進めてきた。高齢住民が多く、早期の移住を求める声もあり、国の予算拠出を促し、毎年度8世帯以上のペースで移転を進めていく方針。
今回の集団移転に関し、国井豊町長は「なじみの土地を離れる不安を抱かず、希望の場所にスピード感を持って移れるよう、住民間の合意形成と国への予算要望を同時に進めていく」と話している。
■住民意見吸い上げを 茨城大地球・地域環境共創機構の田村誠教授(環境政策)の話
気候変動で水害が頻発し、流域一帯を堤防で守ることが難しくなっている。住宅のかさ上げや移住と組み合わせ、いかに被害を抑えるかが流域治水の考えだ。
住民は望ましい移転の在り方を早くに描き、互いに納得して意見を擦り合わせることが肝要。行政には選択肢を示し、住民の意見を吸い上げる姿勢が求められる。人口が減る中、コンパクトでにぎわうまちづくりの一環として長い目で進める必要がある。
★防災集団移転促進事業
洪水や土砂崩れ、津波など災害で被害を受けた地域や、将来被災する恐れのある地域から集団で移転してもらう事業。1972年の豪雨災害を受け創設された。国土交通省が事業費の約9割を負担する。国の補助を受けた自治体が災害危険区域を定め、その土地を買い取り、新たな住宅の建設に制限をかける。住民は土地を町に売った資金を、移転先の宅地購入などに充てる。