重症者の救命期待 要請判断 不安の声も 茨城県内「選定療養費」徴収
緊急性のない救急搬送患者から「選定療養費」を徴収する茨城県主導の取り組みが2日、県内22の大病院で始まる。不要不急の搬送が減少し、一刻も早い重症者の処置につながることが期待されている。一方、救急要請控えの懸念や実効性ある検証を求める声も上がっている。
■代替案難しい
「重篤な患者の搬送が遅れ、命を落とすことを絶対に防がなければ」
大井川和彦知事は10月の定例会見で、趣旨を強調した。昨年の茨城県の救急搬送数は14万3000件超と過去最多で、このうち軽症者が半数近かった。
6月には三重県松阪市が先行して運用を開始。8月までの3カ月間で、救急搬送件数は前年同期比で23.2%減少した。
今回参加する日立製作所ひたちなか総合病院(茨城県ひたちなか市)の外科医、間瀬憲多朗氏=県医師会副会長=は「救急車の適正利用に向け(効果的な)代替案を出すのは難しい」と取り組みに理解を示し、「医療現場の逼迫(ひっぱく)が改善されてほしい」と切実に語った。
■客観的分析を
複雑な思いをのぞかせる人もいる。県央地域の医療従事者の40代女性は「結果的に医療の質が上がれば素晴らしい」と基本的に歓迎する。だが、子どもはけがや病気が多く、初めて子育てする親は特に心配が絶えないとし「小児の要請控えが起きないよう、対象から外すべき」と訴える。
このほか高齢者からも、救急要請をためらい、病状が悪化することを心配する声が出ている。
10月の保健福祉医療委員会では、委員で医師の金子敏明県議が「健康被害が出ていないか、データ的に明らかにできる検証体制を構築してほしい」と、要請控えの影響を客観的に分析するよう求めた。
■取り組み周知
県や市町村などは取り組みの内容が正しく理解され、救急車を利用すべき人が要請しない事態が起きないよう、広報紙やホームページ、チラシなどを活用して周知を図っている。
運用開始後は月1回、検証を実施。関係機関の情報共有で問題を把握し、改善に生かす。
県医師会の松崎信夫会長は「検証が大切。この事業が適切に運用できるよう、連携しながら進めていきたい」と話している。