《広角レンズ》茨城県内サケ捕獲過去最低 24年度26匹 採卵・放流に影響
茨城県内の河川を遡上(そじょう)するサケの捕獲数が記録的な低水準に落ち込んでいる。県によると、2024年度は26匹にとどまり、過去最低だった23年度の120匹を大きく下回った。温暖化に伴う海水温の上昇が影響したとみられ、サケの採卵とふ化放流に取り組む漁協は危機感を募らせる。
同県常陸大宮市辰ノ口の久慈川漁業協同組合のふ化場。25日、水槽に水は張られず、地下水をくむ電動ポンプも稼働していない。
「漁協でふ化を40、50年やってきて、できなかったのは初めてだ」。同漁協事務局の須賀川昭人さん(37)は嘆く。
24年度は9月下旬から12月中旬までの間、久慈川でサケの捕獲を行った。だが、捕まえたのは雌2匹と雄1匹のみ。過去最低だった前年度の4匹をさらに下回った。採卵した卵は筋子状で未成熟な状態。雌と雄を捕獲するタイミングもずれてしまい、受精はかなわなかった。
1日で100匹ほど捕れたこともあったが、近年は低調が続く。高杉則行組合長(77)は「急に好転するとは考えられない。近い将来のサケ事業撤退も頭に入っている」と険しい表情を浮かべた。
県水産振興課によると、県からサケの特別採捕の許可を得ているのは、久慈川と鬼怒小貝(同県筑西市)、那珂川(同県城里町)、那珂川第一(同県水戸市)の4漁協。24年度の捕獲数は19日現在、久慈川で3匹、那珂川で12匹、鬼怒川で11匹の計26匹にとどまった。記録が残る1955年度以降で過去最低だ。
85年度に過去最高の4万7692匹を記録し、それ以降は2万~3万匹程度で推移してきた。2019年度に5258匹と激減し、減少傾向をたどる。
2024年度は北海道など各地で捕獲減が目立つ。温暖化に伴う海水温の上昇が指摘されており、同課担当者は「(茨城県は)サケの南限といわれている。影響が色濃く出ているのではないか」とみる。
サケの捕獲減は、地域で親しまれてきた催しにも影を落とす。
鬼怒小貝漁協は例年11月上旬に開いてきたサケの捕獲・採卵見学会を中止した。宮田芳男組合長(76)は「昔は網をかけているときも泳いでいるのが見えた。今は全然見えない」と話す。
今回採卵できた卵は約8000個。ふ化したサケは川を下って海に出た後、北上してベーリング海やアラスカ沖などを回遊。3~4年ほどで成魚に成長し、生まれた川に戻って産卵する。
24年度もできる限りのふ化を目指して奮闘するが、過去5年間で最も多く放流した20年度の約25万匹には遠く及ばない。25年2月に予定していた稚魚の放流会も中止を決めた。
「25年はサケ事業の曲がり角になってしまうかもしれない」。宮田組合長は肩を落とした。