滅びの美 幻想風景40年 朽ちた人工物 鎮魂の月花 日本画家・藤田志朗さん回顧展 茨城県五浦美術館
幻想的な心象世界を描き続ける日本画家・藤田志朗さん(73)=茨城県つくば市在住=の個展「幻視する風景 藤田志朗の世界」が、同県北茨城市大津町の県天心記念五浦美術館で開かれている。朽ち果てた人工物を描いた幻想風景を主体に、月と花を題材に自然災害の犠牲者を悼む近作まで約30点を集め、40年を超える画業を回顧。滅びゆくものを追究するその筆致は、花鳥風月とは別次元の美を伝えている。
藤田さんは1951年、日本画家であった両親の元京都府京都市に生まれた。東京芸術大では、日本画家の稗田一穂氏(20~2021年)、工藤甲人氏(1915~2011年)らに師事。1980年に同大大学院を修了し、翌年には日本画団体の第8回創画展で初入選を果たす。以降、打ち捨てられた機械類、荒涼とした海景が織りなす独自の心象風景を確立していく。
2000年代に入ると、作風はより洗練された月夜の海景へと展開する。さらに11年3月の東日本大震災を機に作風は劇的に変わり、画面には大きく描かれた月とそれに呼応する無数の花々が表されるようになる。
創作の一方、1985年から約30年にわたって筑波大で教職を務めたほか、県美術展覧会の運営にも尽力するなど、県内の美術振興にも貢献する。
本展では、創画展に発表してきた大作を中心に、40年を超える藤田さんの画業を網羅している。
初期の作品は、対象のクローズアップや極端な遠近法を用い、朽ちた人工物をリアルに捉えた描写と重厚な質感表現が重なり合う。創画会賞を受けた「鳥寄せ」(88年)、巨大な難破船をモチーフにした「鳥夢-海」(95年)などが存在感を示す。
2000年代に始まった海景シリーズは、従来の陰鬱(いんうつ)とした重々しい心象風景を洗練。月をやや大きめに描いた「夕影夢」(07年)、「十六夜の時」(10年)など幻想的な夜景へと転換していく。
その後、大震災を機に、作品は仏画のような荘厳さをたたえ始める。華やかな月と花が織りなす画面構成はまさに浄土の風景。「月になる花」(15年)や「宙」(23年)など、地上から天に舞い昇る無数の花は、亡くなった人たちの魂を象徴している。
藤田さんは、画家として歩み始めたころを振り返り、「視覚的にきれいなものより、なぜか朽ちた機械類など滅びゆく姿に心を引かれた」と話す。「強い主張などは一切なく、身の回りの自然や社会の出来事を自分なりにこなし絵にしてきた。40年の歩みを、自由に感じ取っていただけたら」と呼びかけた。
会期は2月11日まで。月曜休館。13日開館、14日は休館。同館(電)0293(46)5311。