持ち運べる点滴開発 スタンド不要、屋外使用も 産総研、民間と共同で 茨城
スタンド不要で持ち運びができる「つるさない点滴」を、茨城県つくば市の産業技術総合研究所(産総研)が民間事業者と共同で開発した。特許を取得した技術を使い、さまざまな場所で点滴ができる。電気を使わず、持ち運べることから、災害時や訪問看護などにも対応が可能だ。高価格など課題も残るが、一部の医療現場で試験的に使われ、今後の普及が期待されている。
■利点
名称は「ツルサーズ」。機器の中に入れた点滴の輸液バッグの表面を、真空などを使って圧縮した空気で押し、一定のペースで点滴の薬液を投与できる。重力に頼らない投与方法のため、床や畳の上など低い場所にも置ける。
サイズは幅約37センチ、高さ約30センチ、奥行き約17センチ。ミシンに近いサイズに機能を収めた。取っ手が付き、持ち運びできる。手動ポンプで空気を充塡(じゅうてん)して動かすため、電気を使わずに済む。これらの利点から災害時や非常時に屋外で使えるほか、訪問看護や在宅診療の際にも活躍しそうだ。
医療現場からの「点滴によるトイレや食事などの不自由を減らしたい」との声を受け、液体などが流れる量を調節・管理する技術に強い産総研と、真空技術を有する金属機械製造の入江工研(東京都千代田区)が手を組み、2018年から開発を進めた。
両者は機器の二つの空気バッグで輸液バッグを挟むように圧縮する発明で、21年11月に特許を取得。24年春に同製品の販売許可を得た。
■現場
ツルサーズは現在、一部の医療現場で試験的に使われている。総合川崎臨港病院(神奈川県川崎市)の理事長で訪問診療医の渡辺嘉行医師は「つるす必要がなく、点滴の転倒事故のリスクがない。無電源のため被災地などでストレスなく使用できる点は大きな魅力」と高く評価する。
今村病院(佐賀県鳥栖市)の院内で使う春野政虎医師は「ベッドサイドや下に置いても使えるため、転倒やチューブを引っかけるなどのリスク軽減にもつながる」と使用感を伝える。
■今後
課題は高額な価格と重さだ。1台約38万円で、輸液バッグを中に入れた状態で約5キロの重量がある。今後はユーザーからの要望を踏まえ、携帯性や操作性向上を目指し改良を進める。
開発に携わる産総研のチョン・カーウィー上級主任研究員は、スタンドでつるす従来の点滴との共存を願い、「普及には時間がかかるが、アイデアを出し、『小さく、軽く、安く』という目標をクリアしていきたい」と話す。
製品化した入江工研の入江則裕社長は「5年後に千台普及させ、将来は10万台以上を目指す。人の命を救える製品。広めて社会の役に立ちたい」としている。