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《リポート2025》「生活の足」支え15年 日立・中里の乗り合いタクシー 需要に対応、運行区域拡大 茨城

住民の暮らしを支える乗り合いタクシー「なかさと号」=日立市東河内町
住民の暮らしを支える乗り合いタクシー「なかさと号」=日立市東河内町


茨城県日立市西部の山間部に位置する中里地区の乗り合いタクシー「なかさと号」が、運行開始から15年を迎えた。近年は地区内で診療所の閉院や商店の撤退などが続く中、運行エリアを区域外に広げてニーズに対応。地域に定着し、住民の生活を支える足として存在感を増している。

「なかったら本当に困る。欠かせないよ」

昨年12月下旬。中里地区に隣接する同県常陸太田市里美地区の診療所で薬を受け取ってきたという1人暮らしの女性(88)は、「なかさと号」での帰路、実感を込めて語った。

タクシーの営業所はなく、路線バスも限られる中里地区。女性は徒歩圏にあった地区内唯一の診療所が2022年に閉院したため、現在は月1回、同号で15分ほどかけて里美地区へ通院する。

中里地区は市中心部と山を隔てた場所にあり、現在は953人(昨年10月1日時点)が暮らす。人口はこの10年で3割減った。65歳以上の高齢化率は59.1%に上り、約3人に1人は75歳以上だ。同号のドライバーを務める鈴木信一さん(69)は「足腰の弱い人も多いので」と話し、乗り降りの際はドアの脇に踏み台を置いたり、利用者の手を引いたりする。

▽支え合う意識

なかさと号は、地域のお年寄りらの移動手段を確保しようと地元住民がNPO法人「助け合いなかさと」を設立し、09年に本格運行を始めた。

交通空白地で認められている「自家用有償旅客運送」としてワゴン車2台で予約運行し、料金は「1回の外出で300円」という定額制。診療所や郵便局など複数箇所に立ち寄っても変わらない。

運行が認められた中里学区以外の地域へ行く場合は1往復600円だが、診療所などに限り市が半額を補助している。拠点は中里交流センターに置き、運転手やオペレーターは地元住民が担う。

運行経費は市と国が7割を助成し、残りの3割は地区の全世帯が払う負担金(1世帯2000円相当)と運賃収入によって地域が負担する。

NPO理事長で中里学区コミュニティ推進会長の石川諒一さん(78)は「住民全体で支え合う意識がある地域だからこそ導入できた。『10年続けばいい』との思いで始めたが、必要性はますます高まっている」と話す。

▽存続へ模索

人口減に伴い利用者確保が課題となる中、同号は生活環境の変化に応じた「区域外運行」で生き残りを図ってきた。

エリアを越えて運行するには事前に行政側と公共交通への影響などを協議する必要があるため、NPOは住民のニーズを細かく把握。12年以降、市中心部に近い斎場やスポーツ施設、市役所、里美地区の診療所などを目的地に追加し、利便性の向上や外出支援につなげてきた。

22年に地区で唯一のコンビニが閉店すると、約1カ月後には、日用品を調達できる常陸太田市の商店を目的地に追加。23年にはJA支店の閉店を受けて市役所本庁に近い別のJA支店を加え、住民の暮らしを支えてきた。

その結果、利用者は1日平均15.5人(23年度)を確保し、運行回数も近年は年間3千回前後を維持している。

石川さんは「今後も必要に応じて運行エリアを拡大するなど、地域に合った方法を常に模索しながら存続させていきたい」と話す。



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