《茨城・ろっこう体験》水中で荒行10分間 鹿島神宮・大寒みそぎ 震える体、気合で完遂
最も寒さが厳しいとされる「大寒」の20日、鹿島神宮(茨城県鹿嶋市宮中)で、無病息災や厄払いを願う「大寒みそぎ」が行われた。御(み)手(た)洗(らし)池に約10分間漬かって身を清める荒行。参加者150人の一員に加わった。
■緊張と不安
神宮によると、参加希望が多く、今回も募集開始日(昨年11月1日)の午前中のうちに定員が埋まったという。内訳は男性118人、女性32人。最年少は18歳、最高齢は77歳。遠くは広島県からの参加もあった。
荒行前、道彦(案内役)を務める天海尉之(あまがいやすゆき)禰宜(ねぎ)が注意点を述べた。「気を抜くと非常に危険。みそぎは我慢大会ではない」と強調した。約3分の1は初参加。重い言葉に緊張感が広がったように思えた。
午前9時45分過ぎ、本殿前で参拝し、池に向かった。到着すると、皆が池の前に速やかに並んだ。外気温は9度程度。例年と比べれば暖かいと言われたが、上半身裸のふんどし姿にはやっぱり寒い。何より地面とじかに触れている足はとてもつらく、「完遂できるか」と不安がよぎった。
■いざ池へ
午前10時、道彦による合図で鳥船行事が始まった。池に入る前の「準備運動」だ。第1段は左足を左斜め前に出し、舟をこぐように「イーエッ」「エーイッ」と唱える。第2段では逆に向きを変え「エーイッ」「ホ」、第3段では再び左斜めに左足を出し、「エーイッ」「サ」。足の冷たさは次第に慣れ、「耐えられる」と思い始めた。
続いて「生魂(いくたま)、足魂(たるたま)、玉留魂(たまたまるたま)」と唱える雄健(おたけび)行事、左手を腰に当て右手の第2、3指を立てて「イーエッ」との気合とともに3度切り下ろす雄詰(おころび)行事、両手を広げて大きく息を吸って吐く気吹(いぶき)行事を経て、いよいよ池に入る。
透き通った深さ1メートル程度の池の水温は12度。「エーイッ」と気合を入れて臨む。入った瞬間はやはり「冷たい」と感じたが、外気温との差がさほどなかったせいか、「入れない」とは思わなかった。
肩まで漬かり、「大(おお)祓(はらえの)詞(ことば)」を読み上げる。神宮が用意したしおりに書かれた文字を追い、「高天原に…」と声を出した。ただ次第に口はガクガクと震え出し、思うように声は出せなかった。読み上げが終わり、最後に目を閉じ、両手を合わせ、家族の健康を願った。
■達成感
約10分間の水中のみそぎが終わった。池から上がると、池の中にいたままの方がいいと思うほど、寒さが襲い、一層体が震えた。池に入る前と同じ行事を再び繰り返し、体を温め直した。すると何か吹っ切れた感じが出てきて、「エーイッ」という声はいくらか大きく出た。
無事に荒行を終え、すぐに着替えた。池近くの湧水茶屋「一休(ひとやすみ)」の温かい甘酒を頂いた。とてもおいしく、食道を伝わっていくことを感じた。
体験者には神宮から修了証が贈られる。「もう一度挑戦するか」と聞かれれば「やりたくない」と答えるだろう。ただ、証書を見て達成感が湧き、すがすがしく、すっきりとした気持ちになったのは間違いない。
★御手洗池
鹿島神宮本殿の東奥にあり、広さは縦約11メートル、横約16メートル。かつては参拝のための「玄関」だと考えられ、池で身を清めてから境内に入っていたという。周囲の崖からシイの大木が竜のようにくねりながら池の真上を横切っている。水は湧き水で、年間を通して水温が安定しており、冬に入るより、夏のほうが外気との温度差で冷たく感じる。