鹿島沖漁船転覆1カ月 水深深く捜索難航 大津漁協、再発防止に力 茨城
茨城県の鹿島港沖合でイワシ漁をしていた大津漁協(同県北茨城市)の漁船「第八大浜丸」が転覆し乗組員2人が死亡、3人が行方不明となった事故から、6日で1カ月。現場付近の海底で船影が確認されたが、水深が深いことなどから捜索が難航し、船の特定と行方不明者の発見には至っていない。茨城海保や国の運輸安全委員会が事故原因を調べている一方、同漁協などは再発防止に努めている。
事故は1月6日午前2時5分ごろ、鹿島港から東約31キロの沖合で、イワシ漁をしていた第八大浜丸が転覆した。乗組員20人のうち17人が救助されたが、50代と60代の日本人男性2人が死亡。40~70代の男性3人が行方不明となっている。
思うように捜索は進まず、同漁協の坂本善則専務理事は「何とかしなければならない」と話す。ただ、船を引き揚げるかは検討中とし、「今までにないくらい深いらしく、何とも言えない」と現状を説明した。
茨城海保は同7日に現場付近の沈没船の影を、巡視船いずの遠隔操作型無人潜水機(ROV)で調査。だが、水深が深くて漁網も多いために特定できず、作業中にROVに修理の必要な不具合が発生した。ROVによる探索再開のめどは立っていないという。現在は通常のパトロール活動で付近の捜索を続ける。
茨城海保鹿島海上保安署によると、乗組員は「網を引き上げる際、魚が多く入ったことで徐々に船体が傾いた」と説明。魚の重みで船体が傾いた可能性がある。水産庁は全国の漁業団体に向けて通達を出し、船が大きく傾かないようにする防止策や、傾いた際の対応訓練をするよう求めた。
また、事故当時に乗組員全員がライフジャケットを着用していなかったことを受け、同漁協はライフジャケットについて講習会を開いたり、購入希望を募ったほか、付属のガスボンベの点検を毎回するよう呼びかけた。
第八大浜丸の沈没時、共に船団を組んでいた運搬船「第三十六大浜丸」や探索船は1月12日、北茨城市の大津港に帰港した。同漁協の漁師は複雑な思いを抱えながら操業している。船頭の40代男性は「行方不明の船頭と仲が良かった。魚が取れ過ぎるのが怖くなった」と心情を明かした。船長の50代男性は「早く見つけないと家族のことが心配」と語った。
国の運輸安全委員会によると、船舶事故調査官はこれまでに乗組員や水産業者の社長らから事故当時の状況を聞き取った。1年以内に報告書をまとめる予定。
■引き揚げ、多額の負担 識者指摘
海底200~250メートルに沈んでいるとみられる船の引き揚げについて、海難救助法に詳しい神奈川大の清水耕一教授(民法)は「国が船を所有する会社などに撤去命令を下す場合もあるが、今回は難しいかもしれない」と指摘する。船会社は自費で引き揚げるしかないとみられ、多額の費用負担が生じ、断念しなけれならない可能性もある。
清水教授によると、油の流出や船の往来を妨げる恐れがある時など一定の条件に限り、国が法律に基づき船会社に撤去命令を出すことができる。ただ、今回の事故はいずれの条件にも当たらないとみられる。
北海道の知床沖で2022年4月にあった観光船が沈没し、20人が死亡、6人が行方不明となった事故では事件性があるとして、捜査名目で国費で引き揚げられた。清水教授は「鹿島港沖の事故でも、理由がなければ、国は撤去命令を出せない」と説明する。
命令などがなければ、保険会社の引き揚げ費用に関する保険金も下りない。
海保による捜索活動の限界もある。人命救助は海上保安庁法で海保の任務とされるが具体的な中身は規定されておらず、無制限に活動できるわけではない。海底深くに沈んだ船の引き揚げには特殊な機材が必要で、「民間でないと難しい」と清水教授は話した。