茨城・常総水害訴訟 「喜べぬ」笑顔なき勝訴 原告は上告意向
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常総水害訴訟の控訴審判決で東京高裁は26日、一審水戸地裁判決と同じく国の責任を認めた。ただ、茨城県常総市若宮戸地区の溢水(いっすい)により被災した住民9人への賠償額は約1千万円減額となった上、同市上三坂地区の堤防決壊で被災した住民の請求は一審同様退けられた。「喜びはない」「勝つまでやる」。20人の原告住民のうち、傍聴に訪れた10人は上告の意向を示した。
同日午後2時10分ごろ。裁判所から出てきた原告共同代表の片倉一美さん(71)は「勝訴」と書かれた旗を広げた。カメラを構えた報道陣がポーズを求めると、「勝ったけどポーズは…。私たちにとっては悪い勝ち方だから」と困惑した表情を浮かべた。原告住民に笑顔は少なかった。
片倉さんは上三坂の堤防決壊で被災。堤防は高さが不十分だったのに、国が改修を急がなかったためだと訴えていた。高裁でも請求が棄却され、「高裁は国側の準備書面を書き写しただけだ」と批判した。
同じく堤防決壊により縫製業の工場が床上浸水した細川光一さん(74)は「同じ鬼怒川の水害なのだから、こっちの被害も認めてほしい」と憤った。
若宮戸の溢水で被災した住民9人への賠償額も減額された。このうちの一人、自宅が床下浸水した女性(87)は「減額されるのはいいが、判決の冒頭で『国の瑕疵(かし)』をもっと強調してほしかった」と残念がった。
「勝つまでやる」。判決後の集会で、弁護団の聞き取りに対し、原告住民10人は上告の意向を示した。
一方、弁護団からは判決に一定の評価をする声も聞かれた。水害を巡り住民が国と争った訴訟では「他の河川と比べ対策が遅れていなければ、行政側に落ち度はない」などと行政の管理責任を限定した「大東水害訴訟」の最高裁判決(1984年)が司法判断の根幹となってきた。
弁護団の只野靖弁護士は「これまで国は何をやっても責任を問われずに自由だった」と批判し、今回の判決により「河川管理の枠組みが広がった」と評価。国には「上告せず早急に賠償を」と訴えた。
片倉さんは「大東の判例の部分で勝てないと私たちの勝訴はなく、全国で水害により悲しむ人が増えていく」と強調した。