《リポート2025》霞ケ浦の厄介者食用化 県と漁業者ら取り組み アメリカナマズ急増 茨城


シラウオやテナガエビを捕食し、霞ケ浦の〝厄介者〟とされる特定外来生物のアメリカナマズ(チャネルキャットフィッシュ)を新たな水産資源に育てようと、茨城県や地元漁業者の取り組みが進んでいる。県と霞ケ浦漁協は県内のスーパーや飲食店に切り身や干物、煮付けの試験提供を始めた。県によると、スーパー店頭などに提供するのは全国初。記録的なワカサギ不漁など漁業者の苦境が続く中、商業化に道筋をつけたい考えだ。
■「白身魚と同じ」
「アメリカナマズの試食、いかがですか」
2月22日夕方、同県水戸市のスーパー「ヨークベニマル元吉田店」で、カレー風味のフライや塩焼きにしたアメリカナマズの試食販売が行われた。恐る恐る味見した女性客は「おいしい」。驚いたような表情でつぶやいた。ナマズは初めて食べたという。男性客(29)も「おいしいし、相当安い」と笑顔。ただ、「どう料理したら良いのか想像つかない」とも話した。同社茨城北ゾーンの吉田武スーパーバイザーは「白身魚のようにやわらかく味は淡泊。さまざまな味付けに合い、子どもから大人まで食べやすい」と説明する。
食材としてのアメリカナマズは日本ではなじみが薄い。人気のサケやブリのように消費者に浸透するかは不透明だ。県は今回、市場の反応を探る試みとして同社など県内の小売店5社8店舗、水戸市の飲食店「市場食堂」など飲食・宿泊店の4社4店舗、同県かすみがうら市のつくだ煮販売「出羽屋」など2次加工業者2社2店舗に約310キロ分の切り身などを提供し、値付けは各社に一任。費用は県が負担した。
ヨークベニマルでは100グラム138円で販売する。外国産ナマズの値段に合わせたという。吉田さんは「現在のお客さんの最大の関心は物価高騰。値段や味について反応を探っていきたい」と話した。
■一大勢力
霞ケ浦では1981年、アメリカナマズの養殖が始まった。県水産試験場内水面支場(同県行方市玉造甲)によると、稚魚数の調査は2000年に始まり、04年には4年前の11倍に急増、霞ケ浦の一大勢力となった。生態系などに悪影響を与えるとして、特定外来生物に指定されている。県などによると、テナガエビやワカサギを捕食し、ワカサギを取るために仕掛けた網の中で食べてしまうこともある。鋭いトゲで網を壊す上、売り先もほとんどなく、漁業者の間では厄介者とされてきた。
霞ケ浦の水産資源の柱は、シラウオとワカサギ、テナガエビだ。県などによると、アメリカナマズがほとんど利用されてこなかったのは、既に人気の魚がいるため食材として認知されないアメリカナマズを取る必要がなかったという。
■新たな転換期
転機が訪れたのは昨年。霞ケ浦のワカサギが歴史的な不漁となった。テナガエビも減る中、危機感を募らせた漁業者がアメリカナマズに着目した。霞ケ浦漁協と県は昨冬、県内の水産加工業者と協力し、切り身や煮付けといった加工品の試作を始めた。漁業者も、臭みが少なく加工しやすい取り方を模索している。
「霞ケ浦の漁業は新たな転換期にある」。同漁協の沼口京介事務長は指摘する。近年は漁師の高齢化による引退、新規参入者や水産資源の減少など課題が山積する。アメリカナマズの商用化は「霞ケ浦での漁業を次の世代につないでいくための取り組みだ」と力を込める。県霞ケ浦北浦水産事務所の中谷仁祟係長は「商業ベースに乗り、地元漁師の経営の下支えになるよう取り組みを進めたい」と話した。