かみね動物園 再生に力 名物園長、生江さん退任 茨城・日立

茨城県内でただ一つの動物園、日立市かみね動物園(同市宮田町)で18年近く園長を務めてきた生江信孝さん(69)が31日付で退任した。もともとは市役所の「事務職員」だが、動物の魅力を分かりやすく伝え、来園者と積極的に交流するなど親しまれてきた。獣舎のリニューアルなど園の再生も手がけ「夢のような時間だった」と語った。
生江さんは1979年、市役所に入庁。都市計画などの担当が長く、「動物については全くの素人だった」が、2007年に当時の樫村千秋市長から「旭山動物園(北海道)のように再生してほしい」と、年間の入園者数が20万人台まで落ち込んでいた動物園の改革を託された。
子ども時代の遊び場だった動物園で働けることは「喜びだった」。園長として開園50周年を機にしたリニューアル事業をけん引した。この間、チンパンジー舎を皮切りに、近年の猛獣舎やビーバー舎まで約15施設が生まれ変わり、入園者数も22年度は39万人に回復した。
掲げたモットーは「楽しく入って、学んで出られる動物園」。野生に近い環境を整え、動物本来の行動を引き出す「動物の福祉」も追求。運営活動は市民ZOOネットワークが主催する「エンリッチメント大賞」を3度受賞するなど高い評価を得ている。生江さんは「今後も引き継いでいってほしい」と願う。
特に印象に残る出来事は11年の東日本大震災だ。発生5日後にライオンが生まれ、「被災者を元気づけよう」との考えから一般公開した。開園前から「きぼう」と名付けられた赤ちゃんライオンを一目見ようとする来園者の行列ができ、逆に多くの人から「ありがとう」と感謝されたという。
自ら来園者を案内する「園長ガイド」も人気を呼んだ。11年に始めた子どもたちの疑問に答える「園長への手紙」でこれまでに返信した数は約1万8000件に上る。「お客の目線」を大切に意識し、毎日園内を2~3周し、気付いたことがあれば飼育員に伝えてきた。
最終日の31日も、毎朝屋外で行う朝礼に参加した。職員から花束を贈られた生江さんは「動物たちが幸せに暮らし、来園者にも幸せを感じてもらえる動物園にするためには、みんなが楽しく仕事することが一番」と呼びかけた。
退職後は「1人の客として外から動物園を眺めていきたい」という。これまで培った人のつながりを生かし、全国の動物園や水族館も巡るつもりだ。