指先に彩り、活力に 「福祉ネイル」 茨城県内で拡大 認知症緩和も期待

高齢者や障害がある人を対象とするネイルサービス「福祉ネイル」が茨城県内で広がっている。同県鉾田市などの高齢者施設で利用者向けの施術が行われているほか、2023年には同県つくば市に県内初の資格認定校が開校し、卒業生が活躍している。指先が彩られる喜びは生きる活力となり、心の健康につながるとされる。施術中のコミュニケーションは、認知症の症状緩和の効果も期待されている。
「元気でしたか。体調はいかがですか」
今年2月、鉾田市の高齢者介護施設「にこにこステーション」。ネイリスト・福祉ネイリストの前野美穂さん(31)=同市出身=は、施術しながら利用者に優しく話しかけた。爪に塗る色を一緒に選んだり、描く絵柄の要望を聞いたりし、耳が聞こえにくい人にはホワイトボードを使い意思疎通を図った。
同施設は月1回、福祉ネイルサービスを実施している。施術中のコミュニケーションには認知症療法とされる「ユマニチュード」や「回想法」が用いられている。手の触れ合いや目線を合わせた会話で、安心感や自己肯定感を与え、昔の思い出に触れることで脳を活性化させるとされ、症状緩和の効果も期待される。
施術を毎月受けている冨森光子さん(92)は「毎回(前野さんが)来るのが楽しみ。孫や娘に自慢するの」と、彩られていく指先を眺めながら、笑みをこぼした。
福祉ネイルは高齢者施設の利用者など、日頃ネイルサロンに行けない人々の元へ出張し、ネイルサービスを行う。日本保健福祉ネイリスト協会が資格を認定している。
マニキュアは爪への負担を減らすため、貝殻などが主成分の素材を使用。施術は10~15分と短時間で、金額も低価格で提供される。
県内では23年、つくば市に初めて資格認定校が開校。前野さんがネイリストの勉強をする中で福祉ネイルと出合い、「(有資格者輩出で)高齢者にも楽しんでもらえる環境をつくりたい」と開校を決意した。
これまでに15人が卒業し、県内の水戸、牛久、つくば、鹿嶋の各市や美浦村など、さまざまな地域の高齢者施設で活躍している。
施設側も効果を実感している。にこにこステーションで施設管理者を務める伊藤健司さん(51)は「毎月のネイルを楽しみにリハビリなどを頑張ってくれる人、前向きな人が増えた」と施設利用者の変化を語る。
前野さんは「ネイルで病気は治せないが、健康寿命を延ばすことには貢献できる。ネイルをすることが高齢者などの活力につながったらうれしい」と、福祉ネイルのさらなる拡大を見据えた。