500円タクシー始動 交通弱者の足確保 茨城・大洗町 普及拡大へ事前登録廃止

町内どこでもワンコインで-。茨城県大洗町内を500円で移動できる貸し切りタクシーが、1年間の実証を終え、4月から本格運行を始めた。75歳以上や要介護者、障害者、妊婦、未就学児(保護者同伴)が対象で、自力での運転、移動が難しい人の足を確保する。対象者は4000人を見込むが、試験運行の利用者は1割に満たなかった。これを受け町は役場での事前登録をなくして手続きを簡素化、普及拡大につなげたい考えだ。
4月下旬の昼前。同町磯浜町の薬局前にタクシーが止まった。買い物帰りの名雪ツヤ子さん(80)が乗車し、ドライバーに500円玉を渡した。名雪さんの身分証を確認し、タクシーは約1キロ先の町役場へ。名雪さんは「自転車で移動していたけど足を悪くして乗れない。運賃が分かりやすくていい」とほほ笑む。
最寄りのバス停まで徒歩20分の高台に住む、米川タマ子さん(82)=同町大貫町=は通院で使う。通常は片道1200円の運賃も半額以下で「家族に頼れない時に自宅前まで来てくれるので助かる」と感謝している。
タクシーは2024年4月~25年3月末まで試験運行。利用者アンケートなどによると、乗客の9割が75歳以上で、自宅とスーパーや病院、銀行を往来する人が多い。安さや目的地で乗降できるのが好評で、利用者の3割で外出が増えたという。
ただ、利用したのは275人で全対象者のわずか7%。障害者と要介護者は各10人以下、妊婦と未就学児の利用はゼロだった。町の担当者は「町内は産婦人科のある病院がない。マイカーや家族の送迎で十分な人も多い」と推し量る。
実証試験では役場で事前登録が必要だったが4月から改め、身分証明書など対象者と分かるものを乗車時に見せることにした。町は「『役場への足がない』との声もあった。出かけたい時に使えるようになる」と浸透に期待を込める。
午前9時~午後5時まで運行し、ひまわり交通(同町)、グリーン交通(茨城県水戸市)、湊第一交通(同県ひたちなか市)が協力。通常運賃との差額は町予算で補う。
ひまわり交通の吉川勝弘代表(60)は「閑散時間帯の稼働率が上がって売り上げも伸びた」と歓迎。25年3月の同時間帯の輸送回数は、24年4月より9倍多い376件。売り上げが前年比1.3倍増の月もあった。
吉川代表は「高齢者が積極的に外出するようになった。(事前登録要らずで)幅広い層が使いやすくなりそう」と広がりを望む。