《リポート2025》国体遺産で地域活性化 鉾田・Sクライミング施設 屈指の拠点、利用者増 茨城

「頑張れ、頑張れ」「登れるよ」「足を上げて」。子どもたちの楽しそうな応援が体育館に響く。茨城県鉾田市徳宿にある「スポーツクライミングセンター」で平日夜の練習風景だ。同施設には茨城国体で使用されたクライミング壁の一部を移設した。茨城国体から6年が経過し、そのレガシー(遺産)は、スポーツを通した地域の活性化に貢献している。
▽集約化
同市は2019年の茨城国体でスポーツクライミングの競技会場となった。大会で使用された施設のうちボルダー壁(高さ5メートル、幅20メートル)については、レガシーとして残すことを決定。移設先は統合に伴い廃校になった旧徳宿小の体育館となった。新たにリード壁(高さ11.7メートル、幅12メートル)を設置して21年10月に供用を開始。23年3月には国体の普及用に鉾田総合公園に設置してあったボルダー壁(高さ4メートル、幅13メートル)とリード壁(高さ9メートル、幅3メートル)も移設した。
市生涯学習課によると、壁を集約化したことで多くのルートをつくることが可能になったため、初心者から上級者までのレベルに合わせることができる施設になった。天候に左右されず、エアコンも設置してあることから、県内でも屈指のクライミング拠点であり、県山岳連盟の強化選手の練習も定期的に開催しているという。
利用者数の推移を見ると、21年度が2238人(市内225人、市外2013人)、22年度が4017人(市内1513人、市外2504人)、23年度が4574人(市内1918人、市外2656人)、24年度が5896人(市内2547人、3349人)で増加傾向にある。開設当初は少なかった市内の利用者数も徐々に増加している。これは市が小学生を対象に開催しているクライミング体験教室や、同施設を拠点として活動している鉾田スポーツクライミングクラブの影響だという。
約3年前から同クラブに通っている鉾田北小6年、鈴木菓望さん(11)は「スポーツクライミングは他のスポーツと違い、身体全体を使うところが面白い。クラブの皆で活動するのが楽しい」と笑顔で話した。
▽課題
市内の利用者数が増える一方で、課題もある。同クラブの創設から関わっている県山岳連盟の木村実副会長は「市内の中学校にスポーツクライミングをできる学校がなく、経験者が別の部活に入ってしまう」と指摘する。小学校の後の受け皿がないことは市も理解しており、市では多世代に使ってもらえる施設にすることを検討している。将来的には仕事帰りの大人にも使ってもらえるような、誰もがスポーツクライミングを楽しめる施設を目指したいという。
市生涯学習課の担当者は「スポーツクライミングを一度体験してもらうと、その面白さに気付くと思う。まずは知ってもらうためのきっかけをつくりたい」と語る。木村副会長は「地元の人にこの壁で練習してもらい、国体に選手として出場してほしい」と期待を寄せた。