カンヌ社交界で能披露 茨城・牛久の能楽師、山中さん 日本芸能、世界へ発信

茨城県牛久市在住で金春(こんぱる)流の能楽師、山中一馬さん(67)が、カンヌ映画祭(13~24日)の公認社交界「CANNES GALA(カンヌ ガラ)」で能を披露する。世界各国のアーティストや文化人、事業家など約150人の前で、源氏物語の登場人物を題材にした「夕顔」を舞う予定だ。日本の伝統芸能の魅力を世界に発信しようと、一層修練してきた。
同社交界は、コンテンツ産業の発展や国際文化交流を目的としたカンヌ映画祭の公式イベントで、次世代の映画や音楽業界を支える企業や個人を招待。国際映画スタジオNOMA(ノマ)主催で、昨年初めて開かれた。日本の映画関係者が運営の中心を担い、映画監督の太一(たいち)さん(54)がチェアマンを務める。
能の披露は初めてで、現地時間の18日。太一さんは「能は世界最古の戯曲で、映画の祖先に当たる。カンヌに持ち込むのがふさわしいのではないかと思った」と話す。
光源氏が愛した女性の1人、夕顔を主役とした演目で、7年前に金春流で約400年ぶりに復曲された。物の怪に襲われ命を落とした夕顔が霊として現れ、旅の僧侶の弔いによって成仏する筋書きとなっている。
主役を務める山中さんは「日本文化の良さを分かってもらいたい。クラシックもいいけれど、お能もいいと思ってもらえたら」と意気込み、稽古の合間を縫って演目の修練を重ねた。
栃木県小山市出身で、約40年前から牛久市に暮らす。50年ほど前、大学の能クラブで出会った19代目櫻間金太郎氏(故人)に師事し、最古の流派である金春流の能楽師となった。
2011年には重要無形文化財総合指定保持者に認定。現在は県南地域や東京都で地元住民向けの稽古を行うなど、能楽の普及活動にも力を入れている。
今回は華道家、萩原亮大さんとのコラボも見どころ。能舞台では松が描かれた鏡板を立てるが、カンヌでは鏡板の代わりに本物の松を使い、萩原さんが即興で活け花を披露。完成した作品の前で、山中さんが夕顔を舞う。
打ち合わせでは、萩原さんに構えや歩き方を教える場面もあり、互いに協力しながら、世界に通じるパフォーマンスを模索する。山中さんは「こういう機会はなかなかない。今回成功し、毎年やるようになってほしい」と希望を膨らませた。