次の記事:【速報】阿見の公園に男女遺体 立ち木で首つりの男性、美浦の48歳か 男性名義の車内で女性発見 茨城 

《連載:命のゆりかご~茨城・涸沼ラムサール登録10年~》(下) 交流・学習

涸沼で水揚げされた魚を手に生徒に解説する清水勝利さん(左)=茨城町下石崎
涸沼で水揚げされた魚を手に生徒に解説する清水勝利さん(左)=茨城町下石崎


■「体験」が未来への鍵 伝統漁法を生徒見学

5月28日、涸沼湖畔にある広浦漁港(茨城県茨城町下石崎)。網が船上に引き上げられると、別の船から見守っていた生徒らの歓声と拍手が上がった。伝統漁法を見学する同県水戸市立常澄中1年の校外学習。コハダやキダイ、コイ、ウナギが揚がり、生徒らは魚種の豊かさを実感した。

講師は、漁師の清水勝利さん(77)。地元で体験プログラムを進める「ひろうら田舎暮らし体験推進協議会」会長でもある。「子どもの頃は水中で目を開けてシジミが採れるほどきれいだったんだよ」。岸で生徒に伝える。涸沼の恵みに生かされているという感謝から、「身近な水辺が汚れないよう関心を持って」と呼びかけた。

協議会は地元住民らで2015年設立。コロナ禍前は子どもたちに涸沼の漁法や食文化を体験してもらう農家民泊が好評だった。海外からも約千人受け入れた。会員住民の高齢化で、コロナ禍が明けても民泊は再開できず、日帰り体験も続けられるか不安が残る。

▼愛着

ラムサール条約の3柱の一つ「交流・学習」を担うのは地元の人たちだ。若い世代が育っている。

水戸市の中学1年、大久保武彦さん(12)はその一人。釣り好きが高じて「ラムサール条約登録湿地ひぬまの会」認定のガイドマスターになった。マスターは涸沼に関して広く専門的な知識が必要な最上位のガイドで、8人しかいない。

大久保さんは毎週のように涸沼に通っては釣り糸を垂らす。ポイントで景観や魚種が変わるのが面白いといい、「ほとりに住んで毎日、釣りしたい」。愛着が深く「豊かな生き物が生き生き暮らすのが魅力」と目を輝かせる。涸沼を広く世界中に知ってもらうためPR動画を作る構想を抱く。

▼楽園

「涸沼は僕らの遊び場だ!!」。表紙に軽快なタイトルと愛らしい生き物の絵が特徴のガイドブック。ひぬまの会が1月に発行した。

最初の項に見開きで条約の意義を記し、涸沼を「『いきもの』の楽園」と表現。あらゆる生物が憩う湿地の価値を強調する。絶滅の恐れがある生き物や伝統漁法、自然体験プログラムを紹介し、涸沼がある鉾田、大洗、茨城3市町の観光情報も伝える。

「自然や地のもの、アウトドア…。点在する観光の〝卵〟をつなげたくて」。ガイドブック編集に携わった茨城町の星川理恵子さん(54)は思いを語る。7年前に同町に帰郷し、地域おこし協力隊として町の広報に努めた。

条約登録から10年たつが、地元の人たちがその意義を十分に理解しているとまでは言えない。環境を守りつつ観光と学びを絡めた「体験」が鍵を握るとし、「レンタサイクルでも釣りでもいい。ふらっと寄って湿地に詳しくなれる仕掛けが必要」と考える。「私のような現役世代が育つよう、歩を進めたい」。無数の命きらめく「ゆりかご」を未来につなぐ活動が続く。



最近の記事

茨城の求人情報