《広角レンズ》茨城県内市町村 DX加速 専門部署設置過半数 電子手続きや自動解析

茨城県内市町村がデジタル技術を使って業務の効率化を進めるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速している。行政手続きをオンライン化したり、ソフトを使った自動解析を拡充したりするほか、生成人工知能(AI)の活用も一部で始まった。デジタル庁の進捗(しんちょく)状況調査によると、県内市町村は職員育成などの項目で全国平均を上回る。一方、取り組みにはばらつきもあり、県は担当者が訪問して促進を図る構え。
■業務効率化
「全庁を挙げて重点的に取り組み、96カ所の計297件、6000時間を超える作業時間を削減できた」。日立市デジタル推進課の滝深秀一課長は強調する。
市は昨年度、1年間かけて全ての課が1件以上のDXを実践。市民がインターネット経由で行政手続きできるように変更したのは、602件と前年の10倍に上った。4月にはオンライン申請のサイトも開設した。
データの手入力や計算、管理を自動化する複数のソフトを導入。同課は効果として、作業の正確性が上がる▽窓口や電話での問い合わせが減る▽市民の利便性が上がる-などを挙げた。
消防現場や子育て窓口で大幅に業務を改革でき、市は優れた取り組みをした職場を対象に「DXグランプリ」と題したコンテストも開催。好事例を他の部署にも取り入れて展開する。
同課は「組織間の温度差はまだある。各課に伴走して支援し成果を高めていきたい」と見据えた。
■AI活用
生成AIを業務に積極的に導入する自治体も増えてきた。笠間市は2023年度、実証実験を経て利活用ガイドラインを策定し、本格運用を始めた。
実証では、利用した約84%の職員が「仕事の効率が上がる」と回答。継続利用を希望する職員が多数を占めた。運用開始後は使いたい職員に限定し、文書作成を含む業務の時間短縮につなげた。効率化によって、仕事に余裕が生まれ、丁寧な市民対応や企画立案といった新しい仕事に取り組める利点があるという。
取手市は、昨年9月議会から答弁書の作成に専用の生成AIシステムを導入。チャット形式で指示を入力するとAIが想定問答の素案を作る。
生成AIについては情報元の著作権や内容の正確性に懸念がある。小美玉市は行政機関向けに特化したAIソフトのみを使う。別の市では個人情報や未公開情報の入力は制限する基準を設けた。AIの回答についても「正確性を図るため、ある程度チェックに時間がかかる点は否めない」と運用面で試行錯誤を重ねる。
■組織に位置付け
市町村ではDXやデジタル化の専門部署を設け、体制を築いている。「デジタル政策課」などの名称で、専任職員を置く課や室を設けているのは44市町村のうち24と半数を超える。ただ人員不足で自主的な取り組みが十分進んでいない自治体もある。
河内町は専門部署がなく、人材不足を補うため外部の「IT相談員」を配置。DXに関する業務の支援や会議への参加により、職員の技術を底上げする。
県情報システム課は「市町村によって取り組みにばらつきはある」と現状を認識しつつ、「国の計画に基づき、各自治体に見合った推進ができるよう周知や支援をしていく」と話した。
★自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進
国はデジタル社会の基盤づくりや地域のデジタル化を促すため、2020年に自治体DX推進計画を策定し、昨年まで随時改訂してきた。各自治体は25年度中に全国の情報システムを共通化するなど計画を実践する。デジタル庁の昨年7月の調査では、県内市町村は13項目のうち「全体方針策定」「職員への研修」など9項目で全国を上回った。一方、「情報責任者の任命」「子育て介護手続きのオンライン化」を含め4項目が下回った。