《リポート2025》処遇改善で人材確保 茨城県南自治体の保育士不足 首都圏への流出深刻

茨城県南地域の自治体が保育士を確保しようと、処遇改善策に奔走している。東京や千葉などの自治体が仕掛ける手厚い処遇政策に伴い、首都圏に近い県南地域で人材流出が指摘されているためだ。お金で引きつけることへの逡巡(しゅんじゅん)もあるが、茨城県側では何とか地元にとどまってもらおうと懸命だ。
▽発端は請願
首都圏から茨城県への玄関口に位置する同県取手市。本年度から重点事業として、民間の保育士や幼稚園教諭などの処遇改善事業を始めた。メニューは二つ。新規採用者の20万円と、勤続功労として3年目に10万円、5年目に12万円、8年目に15万円、10年目以降は5年ごとに20万円を交付する。市保育課は勤続功労制度は珍しいと自負し「一過性のものでなく、取手で長く働いてほしい」と期待する。
きっかけは2023年、市議会が全会一致で可決した請願だ。市私立幼稚園連合会が保育士や幼稚園教諭などの処遇改善を訴えた。請願では人口減少に加え、通勤圏内である東京都や千葉県に保育人材が流出し、人手不足が深刻だと指摘。要因として行政独自の処遇改善事業を挙げ、毎月の給与上乗せ金や家賃補助などで人が取られているとし、市にも措置を求めた。
▽ためらい
連合会の会長で、認定こども園・みどりが丘幼稚園の宮本裕次園長は「10年前ぐらいから人が集まらなくなった」と振り返る。人口急増のつくばエクスプレス沿線で子ども施設が増えたことなどが一因とみる。
同園では人材紹介業者の利用や大学訪問、全国に求人を出すなどし、人材確保に努める。また現場の負担軽減にも乗り出し、補助員の配置や情報通信技術(ICT)にも取り組む。プロモーションも力を入れ、ユーチューブで園紹介もした。懸命な努力も人員は十分でなく、0歳児は受け入れを停止している。
ショックな出来事があった。数年前に参加した近隣の保育就職説明会では千葉、埼玉のブースには約100人並んだが、茨城はわずか5人ほどだった。
金銭的施策に宮本園長は当初「お金で釣るのは良くない」とためらった。しかし「処遇面で学生の選択肢に入っていないのでは」と捉え、受け入れるようになった。「補助金を有効的に使ってアピールしたい」と言う。
取手市に隣接する同県龍ケ崎市でも月額上限3万円の家賃補助ほか、市内保育施設に勤務した人に、条件次第で修学貸付金の返済全額免除を展開する。市保育課の担当者は「現場では休みや産休を取りつつ、保育の質をよくしたいという思いがあるが、余力がない」と語る。人員が充実して働きやすい環境となれば、離職減にもつながるとみる。
▽地元志向
保育士や幼稚園教諭を養成する聖徳大(千葉県松戸市)の黒沢寿美教授(児童学)は「学生の多くは生まれ育った地域で働きたいが、経済的な理由から処遇面で地元ではない就職先を選ぶ子もいる」と分析する。一方で「施策の情報が正確に学生に届いているのかは課題だ」と話す。少子化が進んでも、女性の社会進出により保育士確保は引き続き課題だとし、「保育の魅力も伝えて志望者を増やさないといけない」と情報発信の必要性に触れた。