茨城県警巡回連絡38万世帯 開始1年、専従係新設 現役世帯の実施率課題

茨城県警の警察官が3年計画で県内全世帯を一軒一軒訪ねる「巡回連絡」が、開始から1年を迎えた。県警は、5月末時点で全体の約3割に当たる約38万世帯を訪問し、犯罪被害の防止に一定の効果が表れているとみる。一方、高齢者宅を除いた世帯の実施率は低迷しており、県警は今春から専従係を新設。集合住宅や新興住宅地での働きかけにも力を入れる。
「固定電話は留守電の設定がお勧めです。犯人は声を残すことを嫌がります。プラスで始まる番号の国際電話を悪用した詐欺も増えています」
今月上旬、同県つくば市内のマンション。県警本部地域課で巡回連絡を担当する森佳奈警部補(33)は、玄関先で住人の女性(39)に語りかけた。
森警部補は犯罪への対策が書かれたチラシを見せながら、市内で自動車盗が多いことや見守り機能のある県警の防犯アプリなども紹介。女性は「小学生の子どもがいて、近所で不審者情報も多いので巡回は安心する。具体的な対策も教えてもらえてとても助かる」と語った。
巡回連絡は地域の警察官が戸別に訪問し、犯罪や交通事故の被害に遭わないための対策などを周知する活動。県警は「犯罪へのディフェンス力強化」を掲げ、重点施策として昨年6月から県内の全123万世帯を対象に始めた。
訪問は1軒当たり約20~30分。ニセ電話詐欺や住宅侵入盗、事故防止、災害対応など8項目を呼びかける。訪問先に応じて犯罪の発生状況や最新の犯罪手口への対策を伝え、住民の意見や要望を丁寧に聞く。
■ハードル
地域課によると、今年5月末時点の実施率は全体で約31%。取り組み開始から1年間で高齢者世帯は約23万世帯、一般世帯は約15万世帯の計約38万世帯に巡回連絡した。月別実施件数は2万5000~4万件ほどで推移する。
昨年はニセ電話詐欺や住宅侵入盗、自動車盗などの認知件数が前年比で減少し、県警は一定の効果が表れているとみる。進捗(しんちょく)については「全体としては順調」とする一方、共働きなどで、日中不在のことが多い一般世帯の実施率向上が課題という。
マンションによっては個人情報などを理由に管理組合の理事会で協力を断られ、入館できないケースがある。最近は警察官をかたった詐欺被害が増える中で「本当に警察ですか」と怪しまれることもあり、訪問のハードルが高まっている。
■情報発信
取り組みを加速させるため、県警は4月1日付で同課内に「巡回連絡推進係」を新設。自動車盗は若い世代に人気の車種が狙われやすく、ニセ電話詐欺も若年層の被害が増えており、現役世代への働きかけも重視する。
同係の職員は現在、人口の多い県警水戸署とつくば署に派遣している。署員と連携し、県庁周辺の新興住宅地や、つくばエクスプレス(TX)沿線のマンションなどを重点的に回る。各署も訪問時間を夕方や休日にずらし、不在時にはパトロールカードを配った上で再訪問するなど確実に顔を合わせられるよう工夫する。
同課は巡回連絡への協力を求める情報発信を強化していく方針で、「最新の被害傾向や犯罪手口を踏まえた対策を呼びかけていく」としている。