《連載:参院選茨城 思いをどこへ25年》買い物「遠く行けぬ」 店舗の撤退や免許返納

水田が広がる茨城県常陸太田市箕町。手押し車にバッグを載せた80代女性が軽トラックの到着を待つ。
同地区には1月から、食品スーパーのカスミ(同県つくば市)が運行する「移動スーパー」が週1回訪れる。軽トラックが止まると、女性は積まれた食材から目当ての野菜や魚、調味料などを手に取り、「客が1人でも来てくれる。ありがたい」と笑みをこぼした。
女性は現在、1人暮らし。年齢や安全面を考慮し、2023年に運転免許を返納した。最寄りのスーパーまでは歩いて約1時間。「とても歩いては行けない。これまでは不便がなかったのに」とため息を漏らす。
休日は県内に住む息子が買い物を手伝ってくれるが、平日は移動スーパーが頼りで、雨の日でも傘を差して到着を待つ。
自宅から店舗まで直線距離500メートル以上で、自動車を利用できない65歳以上は「食料品アクセス困難人口」と呼ばれる。農林水産省農林水産政策研究所の推計によると、県内では増加傾向で、20年は約22万人だった。
同市を含む県北地域の高齢化率は約38%。県北6市町それぞれの困難人口は65歳以上の25~30%で、背景には人口減に伴う店舗の撤退、免許返納がある。
かつて炭鉱労働者が住む「常磐炭鉱住宅(炭住)」が並び、炭鉱の街として栄えた同県北茨城市中郷町石岡も、衰退の一途をたどる。
創業73年の「まつや商店」を経営する金沢啓二さん(69)は「小学校の全校児童は1000人近くいた。映画館やプールもあった」と最盛期を懐かしむ。
同店には手作りの総菜や野菜といった食料品などが陳列される。1日の買い物客は平均20人程度。多くは免許を返納し車を持たない地区の高齢者だ。地域住民の生活を支えるため「やめられない」と言うが、厳しい経営環境に物価高騰が追い打ちをかけ「踏ん張っても踏ん張りきれない」とこぼす。
「国がもっと早く少子高齢化対策をしておけば、こうはならなかった。政治家は現状を見てほしい」。地域を見続けてきた金沢さんは語気を強めた。