《連載:いばらき暮らしいま ’25参院選》(5) 「生産者の努力ではどうしようもない」

■コメ価格 農家に不安 政策、長期的な目線で
夏空の下、青々と育った稲の葉が風になびく。今月上旬、茨城県龍ケ崎市塗戸町。見守るのは横田農場代表の横田修一さん(49)。主食用米など約177ヘクタールを栽培する大規模農場だ。
種や農薬、燃料、地代…。生産には必要な経費がかかる。生産性を上げようと努めてきたが、ここ数年で肥料や農薬といった資材費の価格が上がり、人件費も上昇。コストは前の1.5倍に増えた。近年は酷暑による減収リスクも高まる。
記録的な価格高騰となった2024年産米。横田さんは「これまでが安かった」と見る。ただ「もろ手を挙げて喜べる状況ではない」。確かに一息ついた農家はあるが、高すぎるとコメ離れは進む。
逆に安ければ利益が出ず、担い手は減る。担い手が減れば、結果的に生産量は減り、価格上昇を招く。
生産コストは農家の規模や地域によっても異なる。適正価格は5キロ3000円台といわれるが、「根拠はどこにあるのか」。不安や懸念は尽きない。
農業産出額全国3位の茨城県にあっても、農家の高齢化や担い手不足、荒廃農地は課題だ。特に中山間地域の稲作は田んぼ1枚当たりの面積が小さく、点在するため、効率化は難しい。
同県城里町の盛田守さん(77)は50年以上、主食用米を作る。付加価値を付け、おいしいコメづくりへ試行錯誤を重ねてきた。コメ価格高騰により差別化が図れなくなったという思いもあるが、何より「消費者のコメ離れが起きないか」と心配する。
国は農地の集積化や大規模化を進めるが、中山間地域ならではの困難さが伴う。一律の物差しで測る政策についていけない現状が目の前にある。「生産者の努力ではどうしようもない。先行きが見えない」
政府はコメ価格高騰を抑えようと、今年3月から備蓄米を放出してきた。農林水産省が公表した小売店での販売数量・価格推移によると、6月30日週の平均価格は3534円と7週連続で低下。だが、県内のスーパーでは銘柄米など5キロ4000円台が多く並び、高止まり感が続く。
価格高騰の影響で、主食用米は25年産から増産される。県内の作付面積は24年産実績に比べ4800ヘクタール拡大し、6万4700ヘクタールに増える見通し。これまで減反政策を取ってきた国は増産にかじを切った。コメ価格高騰を受けた農業政策は参院選で争点に挙がっている。各党は「直接支払制度創設」「外国産米の輸入拡大」などを掲げる。
茨城大の西川邦夫教授(農業経済学)は1人当たりの消費量は1960年代に比べて半減しているとしながらも、「令和の米騒動を見ると、コメは今も日本人にとって特別な地位にある」と指摘する。
同県茨城町でアイガモ農法による有機米を栽培する斉藤卓也さん(40)は訴える。「やみくもに増産すると価格下落になり、生産者を苦しめる。長期的な目線で安定、安心して生産できる環境にしてほしい」(おわり)