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《いばらき戦後80年》茨城県内、語り部育成急務 戦争体験者、年々減少 伝える機会「今しかない」

「語り部」として子どもたちに戦争体験を語った座談会=6月、水戸市緑町
「語り部」として子どもたちに戦争体験を語った座談会=6月、水戸市緑町


多くの命が失われた先の大戦の終戦から15日で80年。体験者が年々減少する中、戦争の記憶や体験をどう継承していくかが重い課題となっている。茨城県内でも戦後生まれが約9割となり、戦争を知らない世代が大半を占める。戦争の悲惨さや平和の尊さを次世代に継承する取り組みや、記憶を伝える「語り部」活動が重要さを増している。

■風化

今年6月、県立歴史館と県遺族連合会が連携協定を締結した。協力体制を築き、戦争体験を継承していくことが狙いだ。同館は展示や講演の企画のほか、戦争関連の記録や資料の保全に努め、同会は語り部の育成や記録集の作成などに取り組むとしている。

小野寺俊館長は「戦争という歴史と向き合うことも歴史館の一つの使命。未来永劫(えいごう)、継続して後世に伝えていくためのベースづくりをしたい」と協定の意義を語る。

同会は「戦争体験者が記憶を語れる機会は今しかない」とし、語り部の育成に力を入れる考えを示す。協定締結に合わせて、戦争体験を語る座談会を開催。会員らが「語り部」として参加し、子どもたちに記憶を語りかけた。

同会の加藤浩一理事長は「終戦から80年。戦争の記憶が少しずつ薄れてきている」と指摘。「当時幼かった私にも戦争の本当の恐ろしさはわからない。このままでは真実が伝わらなくなる恐れがある」と風化を危ぶむ。

■自分事

水戸市は2010年度から語り部派遣事業を展開。戦争経験者を語り部として登録し、学校や施設などで講演活動を続ける。これまでに重ねた回数は100回を超え、子どもたちを中心とした参加人数は約1万人に迫る。

10年近く語り部を務める小菅次男さん(89)=同市=は「今の子どもたちにとって戦争は絵空事かもしれない。しかし、繰り返し話していけば、必ず心に届くと信じている」と語る。

体験談は映像として記録に残し、DVDを貸し出したり動画を配信したりしている。市文化交流課は「戦争と平和を自分事として考えるきっかけづくりにつながれば」と話す。

■対話

「語り」を研究する茨城大の伊藤哲司教授(社会心理学)は、語り部が果たす役割について「戦争体験者の語りには重みと説得力がある」と強調する。その上で、講話による一方的な語りかけではなく、「対話することで聞く人に共感が生まれ、関心が高まることで、事実だけでなく個々の記憶や思いも引き継がれる」と、対面で語り継ぐことの重要さを説く。

今後は、戦争を知らない世代が「語り部」として継承することになるが、戦争体験に直接アプローチするのではなく、「『平和』を入り口にすることで受け入れやすくなる」と提言。将来の記録ツールの一つとして人工知能(AI)の活用なども見込まれるとし、「語りと他の手段を組み合わせることで、戦争経験者の感情の部分を含め、子や孫の世代にまで引き継いでいくことは可能」と指摘した。



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