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《広角レンズ》「記名式ごみ袋」見直しへ 採用の茨城県内10市 個人情報保護、揺れる運用

記名欄に住民の名前が書かれたごみ袋=那珂市東木倉(画像は一部加工しています)
記名欄に住民の名前が書かれたごみ袋=那珂市東木倉(画像は一部加工しています)


分別の徹底や不法投棄の防止を目的に導入された「記名式ごみ袋」。採用する茨城県内10市で見直す動きが出ている。排出者の氏名記入を必須とする2市は、プライバシー保護を理由に運用の在り方を検討中。記名が任意の8市でも、名前でなく番号で対応したり、記名欄を廃止したり。逆にいったん廃止したものの市民の要望を受け復活させる動きもある。県内の状況を探った。

7月の朝、那珂市内の収集所。20個ほど積まれた市指定の可燃ごみ袋の「排出者氏名」欄には全て名前が書かれていた。「初めは抵抗感があったけど、ごみの中身に責任を感じて分別するようになった」。収集所を管理する住民男性(92)は振り返る。

■賛否割れる市民

市が無記名の可燃・資源ごみを回収しない「記名制」を始めたのは1994年。制度開始から30年以上がたち、個人情報の流出を恐れる声が出てきた。市は来年度のデザイン刷新に合わせ、無記名を回収しない一律の制度をやめ、自治会や収集所ごとに運用を任せる方針を固めた。

だが、6月の全員協議会で「自治会長の聞き取りが不十分」などの反対意見を受け、方針を撤回。市は管理者のアンケートを基に制度の在り方を再び検討することにした。

自治会長として収集所を管理する市議(51)は「誤った分別で記名もない袋は自治会で再分別していたが、切りがないので市に通報している。匿名性が高まればマナーは悪化する」と危険性を指摘する。

制度に対する市民の評価は割れている。茨城新聞が7月、市民76人にアンケート調査した結果、分別や収集所の秩序を守るために必要とする賛成意見と、プライバシー保護を優先すべきとの反対意見があった。反対の市民からは、番号や記号で輩出元を識別したり、袋に透けにくい色や素材を採用したりすべきとの提案もあった。

■廃止後に復活も

指定ごみ袋に欄がある10市のうち、記名が必須なのは那珂と石岡。可燃ごみが対象の石岡市は、個人情報の保護を心配する声を受け、見直しを検討中だ。

任意とする8市のうち5市は「手引」などで市民に記名を求めているものの、出される袋の大半は記名されていないのが現状で、自治会や管理者ごとに運用も任されている。

可燃、不燃、資源の袋に欄がある神栖市は「名前の代わりに各戸に割り当てた番号を書く収集所もある」と話す。

20年前に可燃、不燃に欄を設けた筑西市は「デザイン刷新で欄をなくすかもしれない」と明かす。

いったん廃止しながら欄を復活させる自治体もある。昨夏から袋の欄をなくした下妻市。「書いている地域もあるから残してほしい」との要望を受け、戻すことにした。担当者は「責任感や分別意識を高める効果を、複数人の市民から熱弁された」と語る。

公共政策が専門の井上拓也茨城大教授は「最優先は女性や子どもの防犯。記名の不安を和らげつつ、分別や収集所の秩序も保つ落としどころを、行政主導の合意形成で丁寧に探る必要がある」と話す。



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