熱中症搬送 茨城県内、10年で35%増 専門家「予防と初期対応を」

茨城県内で今夏、熱中症で救急搬送される人が増加している。26日に発表された総務省消防庁のまとめによると、全国の今年5~7月の救急搬送者数の累計は5万9218人で、2015年の3万503人からほぼ倍増した。25年同期の県内の搬送者は1267人で、15年の830人から約35%増となっている。8月後半も厳しい残暑が続き、搬送者は後を絶たない。部活動中に熱中症で倒れ、長く苦しむ子どももあり、専門家は「予防と初期対応が何より大事」と注意を呼びかける。
■部活動中に
「先輩に付いていかないとと必死だった」。2年前の夏、県内の高校空手部に所属する女子生徒(17)=3年=は、部活動中に熱中症で倒れた当時を回想する。
午前9時の練習開始からわずか30分。女子生徒は普段と違う疲れを感じていたという。道場内を走り終え、休憩に入ると意識を失った。母親(51)が学校に駆け付け、けいれんする娘の姿を目の当たりにした。監督や部員が女子生徒の体を冷やし、救急隊の到着を待っていた。
女子生徒は2日後に退院。家族や空手で出会った人との交流で少しずつ回復し、今春、部の仲間の力になりたいとマネジャーとして部に戻った。「熱中症は本当に怖い。限界を超えて頑張るのはいいことかもしれないが、無理しすぎると自分のように後悔する」
空手部顧問の男性は、女子生徒が倒れた23年も「それまでにない暑さだった」と振り返り、対策について反省する。道場にエアコンはない。暑さのピークを避けて練習し水分補給も指示。今はより細やかに気を配る。
■命の危険
気象庁によると5日に古河市で県内史上最高の気温40.6度を観測するなど、今夏は異例の猛暑が続く。26日の消防庁のまとめによると、茨城県の熱中症による救急搬送者数は7月だけで計858人。内訳は、死亡2人、重症26人、中等症363人、軽症467人となっている。
「熱中症は一歩間違えば命の危険につながりかねない」。水戸済生会総合病院の村岡麻樹救命救急センター長(59)は、熱中症の「怖さ」を強調する。
熱中症は老若男女、昼夜、屋内外問わず起こり得ると指摘。特に高温多湿、風が弱いなどの悪環境、激しい運動や慣れない運動、水分・塩分不足が発症リスクを高めるとする。ストレスや疲労、睡眠不足も引き金という。
重症化すると、脳や脊髄などの中枢神経、臓器、血液などに重い障害をもたらす恐れがあり、最悪の場合は命の危険を伴う。炎天下でのスポーツや屋外での労働などは「特に危険」だと警鐘を鳴らす。
■徐々に進行
熱中症は徐々に症状が進み、最初の段階で対応できれば重症化を防げる可能性が高いという。村岡センター長は応急処置として、日陰に連れていく▽風を当てる▽水分と塩分を取る▽冷やす-ことを推奨。「自分は大丈夫と決して油断してはいけない。本人は無理や我慢をせず、周囲はその人の発するサインを見落とさないでほしい」と訴えた。
■熱中症の症状と重症度分類■
【Ⅰ度(軽度)】
・めまい、失神、立ちくらみ、筋肉痛(こむらがえり)、筋肉の硬直、大量の発汗、手足のしびれ、気分の不快
【Ⅱ度(中等症)】
・頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下
【Ⅲ度(重症)】
・意識障害、けいれん、手足の運動障害、高体温、肝機能異常、腎機能障害、血液凝固障害