運転手確保、シニア照準 茨城県内バス各社の採用活動 体験会、垣根越え連携

働き方改革やベテランの退職で運転手の確保に悩むバス業界が、転職や退職後のシニア層をターゲットとした採用活動で連携を深めている。茨城県バス協会と県内でバスを運行する各社は、合同説明会と運転体験会の開催を重ね、8月には3回目を開いた。参加企業も増えており、県内のバス会社は垣根を越えて、運転手の確保を進める。
同月下旬、同県水戸市見川町の県トラック総合会館で開かれたバス運転手の体験会には、バス業界への転職を考えている人やリタイア組のシニアなど男女38人が集まった。
体験会では、同会館の駐車場に専用のコースが設けられた。大型免許を持っていない参加者らは、普段の車との違いにとまどいながらも、現役の運転手に教わりながらバスを運転。乗客を乗せて発進し、バス停で停車するまでの一連の流れを体験した。各社の紹介ブースも訪ね、業務内容や待遇について熱心に質問して回り、バス業界への興味を深めた。
県南から来た50代男性は、「バスの運転手は責任ある仕事で、定年が長いのも魅力に感じた。転職する際にはバス業界も選択肢に入れたい」と話した。
競合他社と協力する背景にあるのは、業界全体が直面するバス運転手の人手不足。同協会によると、県内の主要バス事業者のうち、乗り合いバスの運転手数は今年3月末で2332人。コロナ禍の大量離職が尾を引き、5年前より約160人少ない。各社は路線の廃止や減便といった対応を進めるものの、高齢運転手の退職と新卒採用市場の競争激化、昨年から始まった働き方改革関連法への対応もあり、業界全体で人手不足が慢性化しつつある。
そうした厳しい状況を受け、県内のバス業界では、会社の垣根を越えた連携が進む。今回の体験会に参加したのは9社で、前回の今年3月より3社増えた。参加したバス会社からは「ほかの会社とは運行エリアなどが異なり、必ずしも競合するわけではない。単独で開くよりも多くの人に注目してもらえるので助かる」との声も上がる。同協会の任田正史会長(茨城交通社長)は「各社人手不足に悩んでいる。競合する部分もあるが、この合同体験会のように協力できる部分もある」と強調する。
同協会によると、近年、学校を定年退職した元教員など中高年層の新米バス運転手が増えてきたという。同協会の亀山明総務部長は「合同体験会は、すぐに採用につながらなくても、転職や退職のタイミングでバス業界を志望してもらう種まきになる。これからも継続したい」と話した。