常総水害10年 「もう少し一緒に」 栗田さん、最愛の優しい夫悼む 茨城
鬼怒川の堤防が決壊した関東・東北豪雨(常総水害)から10日で10年が経過した。決壊現場にほど近い茨城県常総市三坂町に住む栗田千代子さん(83)は被災した自宅から救助されたが、夫の要也さん=当時71歳=を亡くした。節目に当たり、家が濁流にのまれたつらい光景を「思い出した」と語り、「気持ちの優しい、いい夫だった。もう少し一緒にいたかった」と最愛の人を悼んだ。
長野県出身の栗田さんは、同市出身の要也さんと60年前に結婚。3人の娘たちが独立し、34年前に東京都内から同市に移住した。夫婦で外壁工事の仕事を営み、朝早くからトラックに乗って都内の現場まで出かけ、一緒に働いた。
2015年9月10日、平穏な家庭は突如として災難に見舞われた。午後0時50分、近くの堤防が決壊。濁流が地面をえぐり、自宅が傾いた。室内にいた栗田さんは近所の人の助言で出窓からはい出し、ヘリコプターで救助された。「逃げるのに必死だった」
要也さんは自宅の敷地にある2階建て倉庫で作業していた。栗田さんが最後に見たのは、倉庫に向かう姿。要也さんは倉庫の屋根に逃れたものの、建物ごと流され、電柱に衝突して水中に転落したと目撃者の話で知った。
要也さんの遺体が見つかったのは3日後。警察官から「見ない方がいい」と言われるほど、損傷が激しかった。
被災後は茨城県つくば市の県営住宅で2年間暮らし、元の場所に自宅を再建した。「お父さん(夫)やその両親、兄弟が生活した思い入れのある場所だから」と戻ることを決意した。
要也さんは温厚で、あまり怒ることがなかったという。おいしい飲食店を見つけると、家族を誘って食べに出かけるなど「優しい人だった」。夫婦で栗田さんの地元の長野県を訪れたり、友人たちと旅行したりしたのも思い出に残る。
常総水害から10年の節目を迎えた10日、栗田さんは決壊現場付近で献花し、黙とうを捧げた。その際「濁流に流される家など、当時の光景を思い出した」。要也さんの墓参りもし「もう少し一緒にいたかった」と語りかけた。
「お父さんのことは忘れない」。要也さんとの思い出を胸に、前向きに日々を送っている。












