筑波大の放置自転車再生 元職員・矢部さん、大学と連携 回収、修理 学生に貸し出し 茨城

南北約5キロ、東西約1キロと全国有数の敷地面積を誇る筑波大(茨城県つくば市)のキャンパス。多くの学生が学内移動を自転車に頼る一方、持ち主の卒業などで構内に残された放置自転車が問題となっている。解決に向けて、元同大職員の矢部玲奈さん(31)=東京都出身=は近くに自転車店を開き、同大と連携した回収・修理と学生への貸し出しに取り組んでいる。放置自転車は減少傾向で「続けていくことが大事」と先を見据える。
「毎年800~1000台が放置された後、廃棄されると知り衝撃だった」
筑波大の放置自転車の現実に直面した当時同大職員の矢部さん。自転車のサブスクリプション(定額使い放題)の仕組みを作れば放置を減らせると考え、その拠点となる自転車店のオープンを決めた。2022年3月に退職し、同6月、同市桜に「サイクルシックつくば」を構えた。
レンタルする自転車は部品を交換したり、さびを取って塗装し直したりして整備。サービス登録料1500円、利用料月額1000円前後で貸し出す。いずれも持ち主や盗難車でないかなどを1台ずつ県警に照会し、回収したもの。最近は、取り組みを知った人が「自分のも使ってほしい」と店に持ち込むこともあるという。
同大によると、23年度は放置自転車が985台だったが、24年度は513台と大幅に減少。このうち約6割に当たる304台をサブスクに活用している。利用者は同大生や地元住民など延べ1650人に上り、特に期間が短い留学生に人気という。
矢部さんは自転車を単なる移動手段と捉えるのではなく、楽しさを伝えることも役割と考え、新車販売やカスタムも手がける。実家は都内の自転車店で、子どもの頃から自転車が身近だった。「風を切り、景色や匂いに季節を感じたり、普段行かない場所に行ったりできる」と、自転車の魅力を語る。
窓が大きく、木の梁(はり)や白壁が特徴的なカフェ風の店内は、自転車を楽しんでもらう工夫の一つ。「(自転車店は)職人がこつこつ作業しているイメージ。メンテナンスすれば長く乗れるので、気軽に入れる店にしたかった」。年に数回マルシェを開き、地域との交流を深めている。
学内では自転車の受け渡し会も開いてきた。今年9月中旬の午後には、試乗して自ら選んだ自転車にまたがり、うれしそうに帰っていく学生の姿があった。「レンタルでも長く使うと愛着が湧くのか、返す時に泣いてしまう人もいる」。物を大切にする気持ちに触れ、これまでの取り組みに手応えを感じている。
オープンから3年が経過した。「放置自転車は減っている。続けていくことが大事で、目標でもある」。笑顔の奥に使命感が光った。