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木々の命、声聞き守る 那珂の樹木医・中村さん 土壌や種子から診断 茨城

イチョウを観察する中村澄夫さん。葉の黄色い枝を見て、「どこかで養分の流れが悪くなっている。剪定する必要があるかも」と話した=水戸市八幡町
イチョウを観察する中村澄夫さん。葉の黄色い枝を見て、「どこかで養分の流れが悪くなっている。剪定する必要があるかも」と話した=水戸市八幡町
検土杖で土を採取し土壌の状態を調べる=水戸市八幡町
検土杖で土を採取し土壌の状態を調べる=水戸市八幡町


身近な街路樹から巨樹、名木まで、物言わぬ木々の命を守る樹木医。茨城県那珂市杉で造園業を営む中村澄夫さん(82)は、経験33年のベテラン樹木医だ。「植物の元気の源は根っこ。木も人も、食べる意欲がなくなると参ってしまう」と語る中村さん。自治体の依頼を受けて文化財の樹木など約40本を担当する中村さんに同行し、木の声を聞く樹木医の仕事をのぞいてみた。

■豊作は危機

9月末、同県水戸市八幡町の水戸八幡宮の境内。樹齢800年、樹高30メートルを超す大イチョウがみずみずしい葉を茂らせ、独特のにおいを放つ種子を落とす。まれに葉の上にギンナンがなる「オハツキイチョウ」として国の天然記念物に指定された〝緑の文化財〟だ。

「疲れているな」。種子の転がるふもとに立つなり、中村さんはつぶやいた。ここ30年で一番の実りというギンナンは「なりすぎている。夏の高温と雨の少なさで命の危機を感じて子孫を残そうとしたんだね」と樹冠を見上げた。

土壌の状態を調べるため、同行した樹木医の村上博史さん(71)が取り出したのは「検土杖(けんどじょう)」という管。根元に差して土を抽出し、手触りで硬度や排水性を確かめる。「人の手で差せない土は硬すぎて根を張れない」と中村さん。土壌は良好だが葉の色が薄く種子が小さいため「養分が少ない」と診断。冬に施肥して回復を促すことにした。

他にも病害虫やキノコの発生、剪定(せんてい)跡の回復具合や枝のバランスなどから木の健康状態を調べる。

■息吹き返す

同県茨城町大戸の民家の一角に息づく樹齢500年のシロヤマザクラ。こけむした幹から若い枝が何本も伸び、それを9本の柱が支えている。

幹に触れた中村さんは「やっと元気になり始めた」と頬を緩めた。樹勢が衰えるたびに新しい芽を育てることで息を吹き返してきたという。はがれた表皮の内側が筋状に盛り上がるのは「養分を吸って木が太ろうとしている証拠」とうなずいた。

全国有数の同種の巨樹として国天然記念物に指定されている。明治大正期は枝が大きく張り出し、花見客の人力車で行列ができる名木だったが、落雷などの影響で次第に弱ったと伝わっている。

この木を管理する斉藤美奈子さん(68)は「ずっとこのサクラを見て育ってきた。木の勢いがなくなって心配だったけど、中村さんのおかげで元気になってきた」と感謝する。

■都市に集中

樹木の保護や管理を担う樹木医は、財団法人日本緑化センター(東京)が試験や研修を行う民間資格。応募は造園、果樹栽培など5年以上の経験が必要で、植物だけでなく昆虫、気象など幅広い専門知識が求められる。募集は1991年から始まり、毎年5、6倍の競争率という。2期生の中村さんは日本樹木医会本部の会長を務めた。

全国の樹木医は3071人、茨城県で70人が活動している(2024年6月1日時点)。同センターは当初、全国で必要な樹木医数を2500人と試算。現在、全体数は満たしたものの、東京や大阪の都市圏に偏在しているという。



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