《連載:盟主復活の幕開け J1鹿島9季ぶりV》(下) 来場52万人超、高い関心 地域の活気へ期待
サッカーJ1鹿島アントラーズが9季ぶり9度目のリーグ優勝を果たした。本拠地で年間優勝を決めたのは2007年以来。6日に最終戦が行われた茨城県鹿嶋市神向寺のメルカリスタジアムには、3万7000人を超える観衆が詰めかけた。今季ホーム戦来場者は最多の52万615人。地元は待ち望んだ優勝の熱気が、地域の活気につながることを期待する。
同市大船津の大川交通取締役、大森輝昌さん(48)は、貸し切りバスに乗車したお年寄りがサッカーの話題で盛り上がる様子が強く印象に残っている。鹿島と優勝争いをしていた柏レイソルの得点力など「試合内容の話までしていた。今まで感じたことのない関心の高さ」と驚きを隠せない。
国内3冠やリーグ3連覇を達成した00年代、鹿島は計9個のタイトルを獲得した。ただ地域の盛り上がりはいまひとつだった。「優勝しても一歩街に出ると関心を持たれていない」。市商工会青年部の山町浩信さん(43)は3連覇した07~09年当時を振り返る。
鹿島は1990年代後半から2000年代にかけ、優勝を重ねた。01年にスタジアムが増築されたこともあり、チケットも入手しやすくなった。ファンにとってさまざまな面で「特別感」が薄まった。
山町さんは、Jリーグ開幕時のようにチームの話題で街が盛り上がればとの思いから、15年に市商工会青年部で「アントラーズ応援委員会」を設立。鹿島神宮を参拝してから試合に向かう「必勝ウオーキング」など、スタジアムの熱気と街を結び付ける活動を展開してきた。
今年は飲食店に動画配信サービスDAZN(ダ・ゾーン)の法人契約を呼びかけ、敵地の試合を観戦して盛り上がる場所を増やす取り組みも始めた。「アントラーズが話題になる機会も増えた。芽が出始めた実感はある」と手応えを感じている。
同市宮中の「鹿とサウナ」オーナー、東佐古滝大さん(33)は山口県出身で、23年に同市に移住した。「選手が訪れた飲食店にサインが飾ってあったり。鹿嶋にとって選手は『向こう側の人』じゃない」と距離の近さを感じる。
選手らによる小学校訪問など地域活動に熱心なクラブの姿勢に「子どもたちも選手を身近に感じているのでは」と語る。クラブは小学生の無料招待を拡大するなど将来のファン開拓にも注力。スタジアムにはキッズエリアも開設され、家族で一日中楽しめる場所になりつつある。
観戦に訪れた人々をいかに街に呼び込むか。「試合後のサポーター交流という醍醐味(だいごみ)をつくっていくのは自分たちの役割」と山町さん。東佐古さんも「1泊して鹿島神宮を参拝するような王道コースができれば」と思い描く。
J開幕当時から応援し続ける大森さんは「アントラーズがなかったら今の鹿嶋の姿は考えられない」と語る。地域は基幹産業の構造改革や少子高齢化など変化に直面するが、「街を引っ張っていけるのはアントラーズ」。欠かせぬ存在となったクラブへ期待は大きい。











