日中緊張 民間交流に影 長引けば「関係壊れる」 茨城
台湾有事に絡む高市早苗首相の「存立危機事態」国会答弁に端を発した日中両政府の緊張状態が、茨城県内の民間・自治体間交流に影を落としている。同県水戸市は10月、高橋靖市長など使節団が人口3000万人超の重慶市を訪れ、交流25年の節目を祝ったばかり。橋渡し役の市日中友好協会は来年の一部事業を中止する方針を固めた。パンダ誘致を目指して4月に陝西(せんせい)省と友好発展に関する覚書を結んだ県も長期化に気をもむ。県内関係者は「民と民で紡いできた関係が壊れ切る前に雪解けしてほしい」と願う。
■水戸市と重慶市
「懸念がないと言ったらうそになる」。高橋市長は11月26日の定例記者会見で重慶市との関係について心配した。「多文化共生社会を構築する上で外国へのチャンネルを持つのは大事。地道に、地に根差した民間交流を大切にしたい」と親交継続に意欲を見せた。
市によると、「友好交流都市」を提携したのは2000年。1985年のつくば万博に合わせ、当時の中日友好協会副会長が水戸市を訪れたのが縁だった。提携以来、子どもや若者の訪問団が互いの市を行き来し、親交を温めてきた。
絆はコロナ禍を機にさらに深まった。水戸市は2020年2月、感染の押さえ込みに苦労していた重慶市にマスク5万枚を送った。次に水戸市が医療用資機材の確保に困ると、重慶市は同年6月、体温計と防護服、マスク計6330点を送った。梱包(こんぽう)された箱には「単なるお返しではなく、長いお付き合いをしたい」という意味の漢詩が書かれていた。
■一部事業中止も
こうした両市の交流を支えてきた市日中友好協会も危機感を募らせる。袴塚孝雄会長は「中国という国の性質上、民間も政治に大きく左右される」と指摘。来年に予定していた交流事業の一部について「中止するしかない」と、現状を嘆く。
同協会が若い世代の交流に力を入れるのは、未来への〝種まき〟という。「互いの都市に良い思い出があると、将来のビジネスや観光交流につながるかも」(袴塚会長)との期待があるからだ。ただ、同協会員の高齢化が進んでいることから「今の状態が長いて、築いてきた関係が途絶えれば、もう元に戻す体力はない」と焦りを募らせる。
パンダ誘致を目指す県は、草の根レベルの交流継続に期待を寄せる。大井川和彦知事は11月21日の定例記者会見で、「こういう時こそ自治体や民間を中心とした草の根の重層的な交流が重要。県もできる範囲で努力を続ける」と述べた。
■観光にじわり
県によると、昨年1年間に茨城県を訪れた中国人観光客は3万人。主な観光地への影響は確認されていないものの、懸念は収まらない。中国側の対日圧力は強まり、日本への渡航自粛や国内のイベント中止、水産物の輸入停止などが打ち出された。茨城空港(同県小美玉市)に就航する中国・上海便は3月まで運休すると運航会社から伝えられた。
中国への観光プロモーションに力を入れてきた県も再考を余儀なくされる。人口14億人の中国は「かなり大きな市場」と県観光誘客課。昨年度は県内の観光地を紹介してもらおうと、同国のインフルエンサーを招き、本年度は、オンライン旅行会社と提携して中国向けの茨城県観光特設ページを制作した。さらなる誘客事業を予定していたが、同課の担当者は「実施するか、するのであればどんな方法か再検討する」と話す。
県内有数の観光地・大洗町観光協会の鬼沢保之事務局長は「観光は平和産業。トラブルは少ない方がいい」と関係改善を願った。










