作曲原点、ピアノ復活 水戸出身・池辺晋一郎さん 温かな音色に感慨 茨城
茨城県水戸市出身の作曲家、池辺晋一郎さん(82)が幼少期に弾き親しんだピアノがよみがえった。同市内の知人宅で30年以上保管され、傷みが激しく廃棄寸前の状態だったが「作曲人生の原点でもあり、大切にしたい」と製造時の部材を極力生かして修復した。ピアノと対面した池辺さんは、感慨を込めながら温かく深みのある音色を響かせた。
復活したピアノは、国内メーカーが1935年に製造したアップライト型。池辺さんによると、母親の綾子さんが女学校時代から同市内の実家で弾いていたもので、結婚後は新居に持ち込んでいた。池辺さんが生まれてからは、綾子さんはショパンやグリーグなどを子守歌代わりに演奏していた。
小学校就学が1年遅れるほど体が弱かった池辺さんは、学校を休んだ日は読書にいそしみ、体調が優れると母親のピアノを独学で弾き遊んだ。自宅に茨城大生が下宿し学生が集うようになると、ピアノ好きの学生とともに映画音楽の連弾や作曲のまねごとを楽しんだという。
池辺さんが中学へ進学した57年に家族は東京へ引っ越すが、ピアノは自宅に残したままだった。その後、90年代に池辺家と親交のあった同市内の米穀商、和田正夫さん(2021年死去)宅に預けられた。
今年4月、和田さんの長男、義正(61)さんが祖父の代からの家業を閉じるこを決断。自宅と店舗を兼ねた建物は売却することになり、店舗の一角に置かれたピアノの処分が懸案となった。6月に池辺さんの立ち会いで業者が検査を行ったところ、内部はネズミにかじられるなど損傷が激しかったものの、復活の可能性も残されていたことから池辺さんは修復を依頼した。
修復作業は象牙の鍵盤や金属製のフレームなど製造時の部材を極力生かしながら、横浜市の工場で約2カ月かけて行われた。作業後は池辺さんと交流のあった元水戸市長、故佐川一信氏のメモリアルホール「佐川文庫」(同市河和田町)に預けられた。
19日に同ホールを訪れた池辺さんは、生まれ変わったピアノに触れ「娘がきれいにお化粧したかのよう。保管してくれた和田家の皆さんや関係者に感謝したい」と述べ、シューベルトやベートーベンの協奏曲の一節を披露。「僕の作曲人生はこのピアノから始まった。多くの人に聴いてもらう機会を設けたい」と声を弾ませた。
■いけべしんいちろう
1943年、茨城県水戸市出身。東京芸術大作曲科を卒業。11曲の交響曲をはじめ、黒澤明や今村昌平監督の映画音楽、「黄金の日々」(78年)や「独眼竜政宗」(87年)といったNHK大河ドラマの主題曲を手がけるなど幅広く活躍。水戸芸術館の設立にも深く関わり、同館で毎年開くクリスマスコンサートの司会を務める。2018年、文化功労者に選出された。











