パンダ誘致継続 日中悪化も民間に期待 茨城県と日立市
茨城県日立市かみね動物園へのジャイアントパンダ誘致が岐路に立たされている。国内で唯一飼育している東京・上野動物園のパンダ2頭が来年1月末で中国に返還。1972年以来、半世紀ぶりに国内にパンダがいなくなる事態になる。高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁を巡り日中関係が冷え込む中、「ゼロ頭」状態が長引くことが懸念される。国内での競合もあり先行きは不透明だが、主体となる県や市は「引き続き誘致していく」と継続の意向。商工関係者は「民間交流を土台に実現できれば」と見据えている。
■従来のスタンス
「日中関係が良くなり、日本にパンダが来るなら日立へと強く思っている」。同市の小川春樹市長は19日の定例会見で述べた。
市内では10月に民間ベースの日中友好交流会議が開かれ、在日中国大使が出席。同時開催のパンダフェスには国営放送局の取材も入り、「好印象を与えた」(実行委)と手応えをつかんでいた。だが、上野動物園からの返還後、新たなパンダを借りる見通しは立っていない。
小川市長は誘致活動への日中関係悪化の影響は現時点でないとしつつ、「国の状況を見極め、市としてどう活動できるか検討したい。県と一緒に進み、市民とともに努力する」と語った。市関係者は「県との間で(誘致を)今やめるやめないという話はない。従来のスタンスは変わらない」と強調する。
■まちおこし
パンダ誘致は県が県北地域の振興を狙いに表明。大井川和彦知事らは4月、パンダが生息する中国・陝西(せんせい)省と友好関係の発展に関する覚書を結んだ。県担当者は「まずは幅広い分野で交流を続けながら関係を築く」とし、交流を深めた先の誘致実現を見通す。
市内では商工業者が関連商品を販売。市役所や商業・観光施設には数多くののぼり旗が掲げられている。市日中友好協会長を務めるITサービス会社の藤井生美社長は「まちおこしの旗印がパンダ。中国とは民民交流を重ね、下地を整えてきた。誘致できる可能性は高いのではないか」と展望する。
市は2021年、かみね公園活性化基本計画を作り、パンダ舎の建設案を示した。来園した女性(30)は「日本からいなくなるのは寂しい。日立に来れば、子どもたちが多く来て活気が出る」と夢を膨らませる。かみね動物園の梅原忠明園長は、チンパンジーなど絶滅危惧種の繁殖実績や、和歌山県のアドベンチャーワールドがパンダの繁殖研究で評価を高めたことを踏まえ、「種の保存への貢献は迎え入れる最重要ポイント」との考えを示す。
■懸念材料
一方、パンダ誘致への課題は多い。動物園の駐車場不足や、市内の交通渋滞の悪化がハードルとなる。主な接続道路の国道6号は慢性的な渋滞が発生。市は国に道路整備を要望しており、受け入れ実現の場合、さらなる道路の拡充や新設も求められそうだ。
動物園の入場者数は年約40万人だが、市は誘致後に100万~200万人になると見込む。公園基本計画は駐車場の立体化や増設を打ち出した。
誘致合戦は飼育実績がある上野と和歌山、神戸のほか、仙台と秋田も名乗りを上げる。市民の中にも地域活性化や経済効果への期待と、生活環境変化などへの不安の声が入り交じる。40代女性は「誘致から7年。国レベルの話なので仕方ないが、今は政治状況が厳しい」と悲観的だ。
誘致に関わる県日中友好協会の川津隆会長は「パンダは日中友好の象徴。どんな政治状況でも民間活動を通じてパンダ誘致の機運醸成を図りたい」と話す。日中友好協会副会長としても「平和と友好の原点に立ち返り、民間交流を通して関係改善に貢献できるよう努める」と語った。











