2016年7月29日(金)

【論説】慰安婦財団設立 相互理解深める運営を

韓国で元従軍慰安婦の支援などを目的とする財団が設立された。日韓が昨年末に合意した従軍慰安婦問題解決のための具体策が第一歩を踏み出した。ことあるごとに外交懸案として浮上する歴史問題を巡る日韓の深い溝を埋め、相互理解を進める象徴としての役割も果たすような運営を求めたい。

「和解・癒やし財団」との名称を掲げた財団は、文字通り元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷を癒やすことを中心にした支援事業を展開することになっている。日韓の合意後にも6人の元慰安婦が他界し、韓国政府が認定した元慰安婦計238人のうち存命者は現在40人となった。支援事業を展開できる時間は限られている。早期の活動開始が重要だ。

当面する課題は少なくない。まずソウルの日本大使館前に韓国の支援団体が設置した元慰安婦を象徴する少女像の撤去問題だ。日本は財団に8月にも10億円の資金を拠出するとみられているが、資金拠出と少女像撤去について、日韓両政府の立場にはズレがある。

日本は「韓国が適切に対処する」との認識で、10億円の資金拠出を受け、撤去に向けた韓国の取り組みが加速すると期待している。一方で韓国は朴槿恵大統領が1月に「政府としてどうこう言える問題ではない」と発言したように、合意に反対する野党や市民団体の視線を気に掛けているのか撤去には及び腰だ。

日韓合意に反対する韓国の世論や市民団体への対応も課題だ。韓国政府が前面に出て合意に完全には納得していない元慰安婦や、日韓合意の破棄までも主張する市民団体への説得を続けている。しかし、対立状況は改善されず、むしろ深刻化している。

財団の運営を担当する理事会の初会合がソウルで28日に開かれたが、反対する市民団体のメンバーらが乱入、理事会後に予定されていた記者会見場に座り込み、警察に排除された。大学教授でもある女性理事長は会見後、刺激臭のするスプレーを吹きかけられ病院に搬送される事態となった。

こうした合意を巡る混乱を沈静化させる努力が韓国政府には求められている。粘り強く日韓合意の意義や重要性を理解させることが、財団の運営だけでなく合意の履行を左右するためだ。日本は見守るしかない立場ではあるが、韓国政府が窮地に立たされないように配慮する必要はあろう。少なくとも、歴史問題で韓国世論を刺激するような言動は控えるべきだ。

8月は広島と長崎への原爆投下や終戦記念日など日本では戦争の歴史を振り返る機会が多い。韓国でも8月15日の終戦記念日が日本の植民地支配からの解放記念日となっており、歴史への認識が敏感になる時期だ。「和解と癒やし」を目的にした財団が、解放記念日を約2週間後に控え発足したのも偶然ではないだろう。

元慰安婦への支援については、日本政府主導で1995年に「アジア女性基金」が創設され、一部の元慰安婦らに「償い金」を支給したが、問題解決にはつながらなかった。

今回発足した財団は、運営主体は韓国ではあるが、事実上は日韓両政府の協力がなければ機能しない。「アジア女性基金」の教訓も踏まえ、反日と嫌韓といった負のスパイラルを断ち切るような運営を望みたい。

2016 年
 7 月 29 日 (金)

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