2020年5月31日(日)

【論説】米が香港特別措置廃止 懲罰よりも説得を

米中はいよいよ「新冷戦」に突入したのか。そんな思いを抱かせる強硬措置の応酬だ。

トランプ米大統領は中国が香港への国家安全法制導入を決定したことに対抗して、香港に認めてきた関税やビザ(査証)など広範囲の特別優遇措置の廃止手続きを開始した。香港は米国が認めた優遇措置を前提にアジアの金融センターとして機能してきたが、米中双方の動きで歴史的な地位を失う危機にある。

国家安全法制の香港への導入は今年夏とされる。このため強権統治が実際に始まるまでに時間的余裕がある。優遇措置が実際に撤廃されれば、香港は中国に完全にのみ込まれてしまい、香港で活動する外国企業なども大打撃を受ける。香港の自由を守るために、米国が役割を果たすことは評価されるべきだ。トランプ氏は中国への懲罰的な行動ではなく、習近平・中国国家主席に香港への強権統治を控えるよう地道な説得に乗り出してほしい。

トランプ氏は中国寄りと批判してきた世界保健機関(WHO)からの脱退も表明した。中国憎しのあまりの脱退は、新型コロナウイルス対策で国際連携が叫ばれる中で嘆かわしい。

優遇措置の撤廃は関税やビザだけでなく、犯罪者引き渡し、軍民両用技術に関する輸出管理などにも及ぶ。香港の民主派デモの弾圧などに関与した政府高官への制裁発動も発表に含まれた。

さらには安全保障上重要な技術研究に関係する中国人大学院生の入国拒否、米国で上場し資金を得る中国企業の透明性確保へ向けた措置も発表しており、広範囲の対中制裁となっている。

驚くのは言葉の激しさだ。1997年の香港返還時に言論や集会の自由を認める「高度な自治」を確約したにもかかわらず、「一国二制度」を「一国一制度」に変える「約束破り」を行ったと指弾している。こうした表現は、習主席との「良好な関係」を自賛し、貿易協議で譲歩を引き出してきた過去のトランプ氏とは異なる。

11月の大統領選が迫る中で、新型コロナウイルスへの対応のまずさから10万人を超す米国民が死亡し支持率が下がっているために、中国との対決姿勢を示すことで浮揚を狙うものだろう。感染症流行での中国責任論も発表で触れた。

米国で対中強硬論は超党派で広がっている。今回の香港問題に関する政策は、昨年11月に成立した「香港人権・民主主義法」に沿っているが、この法は上院で全会一致、下院でも賛成417対反対1で可決した。

少数民族ウイグル族を弾圧する中国当局者への制裁法案も米議会は可決している。中国が「内政干渉」としてきた人権や民主主義の面でも責任を追及する動きだ。香港で中国の強権統治を認めれば、「次は台湾」という警戒感も米国にはある。

習氏の登場とともに強権化が加速し、豊かになれば政治も民主化するという期待が消えた。むしろ米国では覇権争いの相手と位置づけられ、貿易や軍事が主舞台だった米中対立は、政治体制の問題にまで広がった。

だが、このまま米中対立が深まり、香港が「自由」を失えば、米中両国だけでなく世界は損失を被る。香港を中国への経済進出の窓口とし恩恵を享受してきた日本も働き掛けを強めるべきだろう。

2020 年
 5 月 31 日 (日)

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