【論説】台湾の新総統就任 慎重な対中のかじ取りを

中国の習近平指導部が台湾統一へ向け武力威嚇を強める中、中国とどう対峙(たいじ)し、安定した関係を築くか。台湾の新総統は滑り出しから難しいかじ取りを迫られる。

中国が「独立派」と批判する民主進歩党(民進党)の頼清徳主席が総統に就任した。民進党は蔡英文前総統の2期8年に続いて3期連続で政権を担う。

頼氏は就任演説で、対中政策について「傲慢(ごうまん)でもなく卑屈でもない態度で現状を維持する」と述べ、統一も独立も求めない前政権の路線継承を明確にした。また中国に対しては、「対等と尊厳」を原則に対話を呼びかけた。

中国は、中台は不可分の領土とする「一つの中国」原則を民進党が認めていないため対話を拒否している。しかし台湾の世論調査によれば、「中台は別々の国」と認識している人が76%に達する。すぐに統一を望む人はたった1%しかいない。中国はこの現実を重く受け止め、民進党との対話に踏み込むべきだ。

民進党は、大陸由来の国民党の独裁政権時代に民主化を求めて生まれた土着政党だ。頼氏には独立派の支持者が多く、蔡氏に比べると独立色が強いといわれる。このため国際社会には頼氏が独立路線に傾くのではないかとの懸念がある。

だが新政権の布陣を見れば、国家安全会議の秘書長など外交・安全保障部門は蔡前政権を支えた中核メンバーを配置、人的にも継承している。中国に武力行使などの口実を与えない慎重なかじ取りを期待したい。

1月の総統選と同時実施された立法委員(国会議員)選で、民進党は過半数を失い、国民党が第1党となった。エネルギー政策などで与野党が対立しており、内政面でも政権運営は困難が予想される。

11月の米大統領選の行方は中台関係にとり不安定要因だ。共和党のトランプ前大統領が当選すれば、中国を挑発して中台対立をあおったり、逆に台湾を米中のディール(取引)に利用したりする懸念がある。頼政権は米政権に振り回されない冷静な対応が必要だ。

中国は、頼氏が当選した直後に台湾が外交関係を維持していた南太平洋の島国ナウルと外交関係を樹立、台湾と断交させた。4月には習国家主席が訪中した国民党の馬英九元総統と会談し、民進党をけん制。福建省住民の台湾への観光再開を約束した。一方で台湾周辺では中国軍機などを活動させ、台湾上空に気球を飛ばすなど威嚇も続けている。

習指導部は、経済的な懐柔を重視した胡錦濤前指導部と異なり、懐柔と威嚇を同時に強める「アメとムチ」の対応だ。しかし併用は効果が上がっていない。また統制が強化された香港で、中国が約束した「一国二制度」が骨抜きにされたのを目の当たりにして、台湾人のアイデンティティーを強める結果となった。習指導部はこれまでの台湾政策が失敗したことを認めて見直すべきだ。

頼氏は親日家で知られ、台南市長時代から自治体交流などを活発に行ってきた。制約の多い対中政策よりも対日政策で独自色を出す可能性もある。日台は正式な外交関係はないが、民間の絆はかつてなく強まっている。日本側も台湾の環太平洋連携協定(TPP)加盟を支援するなどやれることは多い。