2017年3月30日(木)

【論説】核禁止条約交渉不参加 非核の国是踏みにじる

国連総会で昨年採択された決議を受け、ニューヨークの国連本部で始まった核兵器禁止条約交渉を巡り、日本が土壇場で不参加を決めた。

交渉会議の開幕直後、高見沢将林軍縮大使は(1)深刻な安全保障上の脅威があり核軍縮には現実的な視点が欠かせない(2)核保有国が参加せず保有国と非保有国の分断が深まる-と演説し、交渉に加わらない考えを示した。

高見沢氏の演説前、広島の被爆者、藤森俊希さん(73)=長野県在住=は壇上からこう訴えた。

「同じ地獄をどの国の誰にも絶対再現してはならない。世界で唯一の戦争被爆国日本の政府は、この会議の実行を盛り込んだ決議に反対した。被爆者で日本国民である私は心が裂ける思いで本日を迎えている」

平均年齢が80歳を超す被爆者と、原爆で無残にも命を失った死者の声を代弁した藤森さんの魂の叫びは安倍政権には響かなかった。当然ながら、被爆地は激しく憤っている。長崎の被爆者団体は「(原爆で)焼き殺された犠牲者に対し、無責任ではないか。人間の心はないのか」と訴える声明文を政府に送付。広島、長崎両市長も「相当残念な思いだ」「強い失望を感じている」と語った。

こうした思いは、被爆体験を背景に「非核」を国民的DNAとして胸に刻み込んできた多くの日本人も共有するところだろう。政府の不参加決定は、長年の国是を踏みにじる行為だ。厳しく指弾したい。

今回の政策決定に携わった政府高官を取材すると、交渉不参加の最大の理由は、日本に「核の傘」を差し掛ける米国のトランプ政権だった実態が浮かび上がる。

オバマ前政権も日本の参加には反対していたが、「日本の国内事情は理解できる」と取材に語り、被爆国日本の参加を容認する米高官もいた。

しかし、オバマ前大統領の提唱した「核なき世界」の理念についてすら再検討を進めるトランプ政権は、日本政府に対し、交渉参加への反対と嫌悪感を伝達。ヘイリー米国連大使は条約交渉開始に合わせ会見し、「議場にいる人々は、われわれが直面している脅威を理解しているのか」と交渉参加国を強くけん制した。

日本政府の指摘する「深刻な安全保障環境」は極めて重要だ。北朝鮮が核能力を向上させ、中国が軍事力を増強する中、米国との同盟関係を維持しながら、紛争を抑止する国防政策を実践していくことは不可欠だ。

だが、核の傘を重大視するあまり、禁止条約交渉にすら背を向ける態度は本当に将来の国益に資するのか。「傘」を最優先する姿勢は、核抑止力を絶対視する北朝鮮の思考様式を固定化することにつがるだろう。また北朝鮮などに対抗し、トランプ政権が今後、核軍拡を志向した場合、安倍政権は毅然(きぜん)とこれを制止する対応を取れるのか。

広島選出の岸田文雄外相はかねて、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うため、交渉に積極的に参加したいとの個人的見解を表明していた。だが交渉不参加により、その選択肢は放棄されたと言ってよく、日本の「非核ブランド」にも国際社会が疑念を抱かざるを得ない状況となった。

被爆国が核廃絶を主導せずして、一体どこの国がその役割と使命を担うのか。不参加決定の再考を求める。

2017 年
 3 月 30 日 (木)

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