2018年10月20日(土)

【論説】免震装置の改ざん 徹底的にうみを出せ

油圧機器メーカーのKYBと子会社による免震・制振装置データ改ざんが、全国の自治体やマンション住民を不安に陥れている。KYBは改ざんなどが判明した装置を使っている建物986件のうち所有者の了解が得られた建物名称70件を発表した。地震が頻発する中、建物の安全性の信頼を損ねたKYBの責任は重大である。

改ざんが明らかになったのは油の粘性を利用して建物の揺れを少なくする装置の「オイルダンパー」。免震用と制振用の2種類ある。国土交通省は、不正な装置が使われた建物でも震度7程度の地震で倒壊する恐れはないとしている。しかし、地震の際に設計通りの性能が働かず、建物への影響が想定よりも大きくなる可能性がある。

免震用は過去にKYBの装置を採用した全ての建物の約86%、制振用は約23%に当たる。自治体のほか、原発の関連施設、東京五輪・パラリンピックの競技会場にも設置されていたことも判明。影響は大きな広がりを見せている。

改ざんは15年以上前の2003年1月ごろから行われてきたとみられるが、そのこと自体が衝撃的である。05年に姉歯秀次元1級建築士による建物の構造計算書偽造が発覚。15年には、東洋ゴム工業の免震偽装、旭化成子会社のくい打ちデータ改ざんも起きている。

「姉歯事件」は地方に波及し、建築基準法など関連法が改正され、構造計算書のダブルチェック、中間検査の義務化、罰則強化が新たに求められるきっかけになった。

今回の改ざんは「姉歯事件」が世間を騒がしている最中に、平然と行われていることになる。改ざんが長期にわたり、常態化し、綿々と引き継がれる。背筋が凍るような暗たんたる世界である。「姉歯事件」の教訓は全く生かされなかった。法律の網をかいくぐるように、建物の安全性の担保が再構築されなかったことになる。

不正の手口は検査数値が基準を逸脱した場合に必要のない係数を掛け、合格の範囲内に修正したというものだ。KYBによると、1995年の阪神大震災などをきっかけに需要が増大。2000年代から生産を強化した。少なくとも8人の検査員が口頭で不正を引き継ぎ、製品の性能をチェックする検査員は一時期、1人しかいなかった。そこには品質管理の軽視、データ管理のずさんさがうかがえる。

同社は不正の動機として「検査に時間がかかったため」と説明している。しかし、到底納得できない。周囲や上層部がなぜ察知できなかったのか、大いに疑問が残る。背景に販売優先の利益追求があるのではないか。

最近、日本の製造業で長期にわたる品質不正の発覚が相次いでいる。かつて世界に誇った「ものづくり日本」。その信頼は損なわれつつある。今回の事態は、諸外国への影響も大きいだろう。

1997年に第一勧業銀行(現みずほ銀行)の総会屋への不正利益供与事件が起きた。当時の頭取らが記者会見で「呪縛」という言葉を使用した。代々の経営者が暴力団らと癒着していたことを、そう表現した。

今回の不正も「利益第一」や「異論を挟めない空気」の呪縛はなかったのか。組織ぐるみの関与がなかったかを含め、徹底的に問題点を洗い出し、うみを出すべきだ。

2018 年
 10 月 20 日 (土)

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