【論説】SNS詐欺とIT企業 犯罪排除で責任果たせ

著名な実業家や評論家が投資を呼びかけているように見せかけた偽の広告を交流サイト(SNS)上に出し、多額の資金をだまし取る「SNS型投資詐欺」の被害が後を絶たない。警察庁によると、昨年1年間の被害額は277億円余り。今年4月には茨城県の70歳女性が貯蓄から約7億円をつぎ込み、全て失ったことが明らかになった。

岸田文雄首相は総合的な対策の策定を表明。自民党は法規制も視野に対策を協議するとし、SNSを運営する米IT大手のメタに全広告の一時停止を検討するよう要請した。被害者4人は「広告の内容が真実か調査を怠った」として、メタの日本法人に損害賠償を求め神戸地裁に提訴した。

しかしメタ側の反応は鈍い。「世界中の膨大な数の広告を審査することには課題も伴う」「社会全体でのアプローチが必要」と、被害拡大の責任に正面から向き合おうとする姿勢は見えない。今どのような対策を講じているか、今後は何をするつもりか、具体的な対応を説明もせず、詐欺行為を放置していると厳しい視線が注がれている。

メタに限らず、巨大IT企業は広告掲載で莫大(ばくだい)な収益を上げる。詐欺目的の広告を締め出すために審査を強化すれば他の広告に影響が及ぶとの懸念もあるようだが、国民がこぞって利用するサービスを提供する重みを自覚し、犯罪排除に相応の責任を果たすべきだ。

著名な実業家らの顔写真や画像を無断使用した偽広告から通信アプリのLINE(ライン)に誘導し、外国為替証拠金取引(FX)や純金積み立てを持ちかける。やりとりを重ねて信用させた上で、インターネットバンキングで送金させる。投資詐欺の典型的な手口だ。NISA(少額投資非課税制度)の非課税投資枠拡大などで投資ブームが広がる中、億単位の被害は珍しくない。

対策としてIT企業による偽広告の削除が挙げられるが、あまり期待は持てない。自民党の会合で、衣料品販売大手ZOZO(ゾゾ)創業者の前沢友作さんや実業家の堀江貴文さんは遅くとも昨年半ばから、自分たちの名前を勝手に使用した偽広告の削除や不掲載を繰り返しメタ側に求めたが、何ら対応が取られないと説明。IT企業への法規制が必要と訴えた。被害防止に消極的とみられても仕方ない。このままなら、企業に偽広告削除を義務付け、被害を認識しながら一定期間内に対応せず、一方で広告収入を得ているのが明らかな場合はペナルティーを科す-といった仕組みの検討が必要だろう。

米グーグルも問題を抱える。地図サービス「グーグルマップ」に投稿された事実無根の口コミが削除されず、利益を侵害されたとして、全国の医師ら63人がグーグルに損害賠償を求め東京地裁に訴訟を起こした。「子どもの骨を折られた」「職員が低脳女」などの書き込みがあったという。

IT企業による取り組みか法整備によって、偽広告などが削除されるようになっても課題はまだある。フェイスブックやLINEといったSNSは、本名でなくても登録、発信できる。

詐欺被害を巡って賠償請求などをしようにも加害者を特定するのが難しく、犯罪のツールとして多用される一因になっている。登録時の本人確認と情報開示の在り方も見直しが求められよう。