【論説】認知症645万人 地域でいかに支えるか

認知症の高齢者は2060年、645万人まで増える。高齢者の5・6人に1人に当たり、前段階の軽度認知障害(MCI)も合わせると、2・8人に1人となる。厚生労働省の研究班が推計をまとめた。認知症でも尊厳を保って暮らせる共生社会を目指す認知症基本法が1月に施行され、政府は推計を踏まえ、秋に基本計画を策定する。

長寿化で、誰もが認知症になり得るリスクを背負う。だが支援する体制は実に心もとない。賃金が安く仕事はきついといわれる介護を担う人材は思うように増えず、慢性的に不足。家族に認知症の高齢者を抱え、介護を理由に離職する人は総務省の22年調査で、年間10万人を上回っている。

しかも支えてくれる家族のいない1人暮らしの高齢者が急増。厚労省の研究機関による推計では、20年の738万世帯から50年には1084万世帯になり、未婚の割合が男性でほぼ6割に上る。介護だけでなく、金銭の管理や見守り、日常的サポートのニーズが切実さを増すが、それに対応する制度は十分機能しているとは言い難い。

多くの施策が行き詰まりかけている。家族の手助けは期待できす、地域でいかに支えるか-が問われる。認知機能の低下を遅らせ、孤立・孤独を防ぐために国と自治体が地域の住民や企業を巻き込みながら施策の拡充を図り、支援基盤の立て直しを急ぐ必要がある。

厚労省研究班の推計で、65歳以上の高齢者で認知症の人は25年に471万人、40年に584万人になると見込まれている。大きな節目は40年。団塊ジュニアの世代が高齢期に入る。バブル崩壊後10年余りに及んだ「就職氷河期」に非正規雇用となり、多くの人が収入は伸びず、未婚のまま年を重ねているとされる。

その先に、厳しい現実が待っている。介護サービスの充実を急がなければならない。40年度にはヘルパーなどを今より約70万人増やす必要があるとされる。だが入浴や排せつを手助けするといった重労働をこなしても賃金は低く、離職も多い。国は事業所の収入に当たる介護報酬の改定を通じて賃上げを促すが、十分な処遇改善につながらず、人手不足などで小規模事業所を中心に撤退が相次いでいる。「特定技能」の在留資格などを持つ外国人を訪問介護で働けるようにするとはいえ、どこまで人材を確保できるかは見通せない。

介護と仕事を両立させる支援制度もなかなか定着しない。もっと地域住民らの力を借りることはできないか。05年度に「認知症サポーター制度」が始まり、住民らが自治体の講座を受講して認知症の正しい知識を身に付ければサポーターになれる。3月時点で全国に1500万人以上いる。

認知症の人や家族が集う「認知症カフェ」の会話に参加したり、啓発イベントに協力したりするのが主な活動になっている。それを認知症の人の身の回りの世話に広げ、見守りや清掃、買い物など一般の人にも問題なくできることはサポーターに担ってもらうという仕組みも考えられよう。

症状の進行を遅らせるケアなどは専門職が責任を持つが、一定の負担軽減になるだろう。少子高齢化で社会全体が老いていくのは避けられない。一方で社会保障の財源は逼迫(ひっぱく)し、人も足りない。そうした中で何ができるか、知恵を絞りたい。