【論説】茨城県内の山岳遭難事故 無理のない計画と備えを

行楽シーズンを迎え、山や海へ出かける人が増えるが、注意も必要となる。特に山を楽しむには十分な備えと体力が必要だ。低山が多い茨城県内の山でも自然を甘く見ることなく、無理のない登山計画を立てて楽しみたい。

県内では昨年、29件の山岳遭難が起き、32人が遭難。前年からは8件増加した。県警は「コロナ禍以降、全国的に増加傾向にある」と説明する。原因は道迷いが最も多く、転倒や滑落も少なくない。昨年10月には大子町の男体山で登山中の男性が滑落死した。県内の最高峰は八溝山の1022メートル。それ以外はほぼ千メートル以下だが、遭難事故は起きるのである。

都心からも近く、人気の山となっている筑波山(標高877メートル)は、ロープウエーやケーブルカーを利用でき、気軽に登山を楽しめる。しかし、歩けば登りだけで1~2時間はかかる。急坂や岩場があり、見た目ほど甘くはない。転倒、急病のほか、登山道を外れたり、日没となったりすれば道に迷うこともある。山には常に危険が潜むことを忘れてはならない。

県警は山岳遭難者を早期に発見し、救助するため、遭難者の位置情報を把握できるアプリの活用を始めた。登山する際にはアプリを利用することを薦めたい。アプリは、衛星利用測位システム(GPS)を活用し、ダウンロードした地図上に登山者の現在地を表示。活動時間や距離、標高も分かるほか、正式な登山届として警察に提出することもできる。

登山者の情報はこれまで登山口の専用箱やメールで警察に提出された登山届でしか把握できず、捜索隊は遭難場所の特定に時間がかかっていた。アプリには見守り機能も付いており、通信環境がない場所でもアプリ利用者同士が擦れ違えば近距離無線通信「Bluetooth(ブルートゥース)」で位置情報が交換できる。いずれかの登山者のスマートフォンが通信可能となった時点で、運営会社のサーバーに情報が送信され、捜索が必要となった際の手掛かりとなる。

本格的な夏山シーズンともなれば事故も増える。警察庁のまとめでは昨年の夏期(7~8月の2カ月間)に全国では738件の山岳遭難が発生。遭難者809人のうち死者・行方不明者は61人に上った。発生件数、遭難者数とも年々増加し、遭難者の5割近くが60歳以上だった。

山岳遭難の要因としては、登山道を十分把握せず、不十分な装備、体力的に無理な計画、天候に対する不適切な判断などが挙げられる。遭難事故防止にはやはり登山に対する知識、経験、体力が欠かせない。天候の急変に備えてのかっぱや、道迷い防止のための地図、日が暮れてしまった場合はヘッドランプや防寒着が必要だ。もちろん、非常用を含めた水と食料は欠かせず、携帯電話の予備バッテリーも持参したい。登山届は電子申請もできる。

体力に自信はあってもいつ体調を崩すか分からない。県警は「経験と体力に見合った山、登山コースを選ぶことが大事」と指摘。高山病や疾患などに襲われることもあり、日ごろの鍛錬と合わせ、登山時の体調を十分見極めて楽しみたい。道迷いや天候の急変、体調不良には経験者の知識や判断力が役に立つ。単独登山は万一の場合に対応が遅れるため、複数での登山がお勧めである。