2019年6月25日(火)

【論説】逃走男逮捕 保釈拡大後退させるな

神奈川県で窃盗罪などで実刑が確定し、収容しようとした横浜地検の検察事務官らに刃物を振り回して逃走した男がようやく逮捕された。19日午後1時すぎの逃走から23日早朝の逮捕まで男は髪を短く切ったり、逃走時の服を着替えたりしながら県内を転々とし、足取りが確認された地域では公立小中学校が休校するなど不安が広がった。

男は窃盗や傷害、覚せい剤取締法違反などの罪に問われ、横浜地裁小田原支部での一審公判中に保釈された。昨年9月の実刑判決で保釈は取り消されたが、控訴後に再び保釈を請求して認められた。今年2月、控訴棄却で判決が確定。横浜地検が繰り返し出頭を要請したが、応じなかった。

保釈された被告らが再犯に及んだり、逃亡したりするケースが後を絶たない中で起きた今回の事件では検察や警察による失態も重なり、混乱に輪を掛けた。ここ10年ほどの間に保釈を広く認めるようになった裁判所の姿勢に疑問を呈し、保釈の在り方を見直すべきだとの声も上がっている。しかし保釈拡大の流れを後退させてはならない。長期の身柄拘束によって自白を強要する、いわゆる「人質司法」の解消に向けて保釈制度が果たす役割は大きい。制度の安定した運用を確保するために、逃走劇を巡る一連の経緯を徹底的に検証し、再発防止に万全を期すことが求められる。

事件発生の当日、収容に出向いたのは検察事務官5人と神奈川県警厚木署員2人の計7人。自宅アパートから出てきた男は刃物を振り回し、近くの駐車場にあった車で逃走した。署員は拳銃を携帯していなかった。まさか抵抗されて逃げられるとは思っていなかったのだろう。あまりにも、お粗末と言うほかない。

逃走は午後1時5分ごろ。厚木署から県警本部に連絡が入ったのは午後3時ごろで、緊急配備は発生から4時間半以上もたった午後5時46分になった。一方、横浜地検は午後4時45分ごろ男の自宅アパートがある自治体に連絡するなどし、午後5時すぎになって初めて事件を報道発表した。

地検も県警も対応が後手後手に回り、午後5時55分ごろ警察官が男を目撃したが、確保に至らなかった。また厚木市には、市内で男が乗り捨てた車が見つかったとの連絡すらなかったという。

法務省によると、男のように保釈されたり、在宅起訴されたりして実刑が確定し、刑務所に収容されるのを免れようと逃げた元被告らは「とん刑者」と呼ばれ、2018年末時点で26人。保釈中に別の事件で起訴される被告も増えている。09年に一般市民が殺人など重大事件の審理と判決言い渡しに参加する裁判員制度が導入され、保釈率は上昇。最高裁によると、10年の18・0%から15年は25・7%、18年は32・5%となった。保釈中に実刑判決を受けた被告の再保釈も13年の454人から17年は808人まで大幅に増えた。

裁判員裁判の審理充実を目指し、被告が弁護人と十分に公判準備ができるようにするためだ。

証拠隠滅や逃亡の恐れがない場合などに認められる保釈のハードルは下がっているとされ、人質司法の解消へとつながる。だが今回のようなことが重なれば、制度そのものの信頼性が揺らぎかねない。収容の態勢や装備も含め、早急に見直しを行う必要がある。

2019 年
 6 月 25 日 (火)

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