2019年8月22日(木)

【論説】カシミール問題 インドは直轄強行するな

インドのモディ政権が北部ジャム・カシミール州の自治権を剥奪し、領有権を争うパキスタンは係争地での一方的措置だとして強く反発している。核を保有する両国の対立激化は地域の安定の重大な脅威だ。国際社会は一致して最大限の自制を両国に迫る必要がある。インドは10月末に同州を連邦政府直轄地にするとしているが、これを強行すべきではない。

同州ではモディ政権が敷いた厳戒態勢で抗議行動が抑え込まれている。5万人以上の治安部隊が展開し、電話やインターネットを遮断、道路を封鎖した。州首相経験者を含む州内の政治家や活動家ら多数を拘束、住民の自由が奪われ、人権が侵害されている極めて由々しい事態だ。

政権はイスラム過激派のテロを防ぐのが目的で、徐々に制限を緩和するとしている。正常な生活が戻ることを願うが、抗議行動と当局による弾圧という暴力の連鎖が心配される。インド国内の他の地域でも、ヒンズー教徒以外の少数派への圧迫が強まり、社会の分断が深刻化する懸念がある。

英領インドから1947年、ヒンズー教徒が多数派のインドと、イスラム教が国教のパキスタンが独立した。両教徒の融和を訴えたマハトマ・ガンジーの夢は破れ「分離独立」となった。この際、イスラム教徒が多数派のカシミール地方を治めるヒンズー教徒の藩王が、インド帰属に合意。毛織物カシミヤの産地として知られるジャム・カシミール州は、イスラム教徒が多数派の唯一の州として憲法で約70年間、幅広い自治権を持つ特別の地位が与えられてきた。

領有権争いなどで両国は戦火を3度交えた。71年の第3次印パ戦争後、暫定的な実効支配線が定められたが、その後も断続的に衝突が起きている。両国とも核拡散防止条約(NPT)未加盟のまま核武装し、南アジア最大の火種となっている。

自治権剥奪は、ヒンズー至上主義団体を母体とするモディ政権与党のインド人民党(BJP)が、今年4〜5月の下院選で掲げた公約だった。下院選は昨年来の世論調査で与党の苦戦が予想されていたが、政権がパキスタンに強硬姿勢を示したことで一変した。

2月にジャム・カシミール州で治安部隊の40人が死亡するテロが発生。インド軍は、犯行声明を出したイスラム過激派の拠点と見なすパキスタン領内で、第3次印パ戦争以来の空爆を行った。国民は高揚し、下院選で与党が圧勝。勢いに乗って自治権を定めた憲法規定の削除に踏み切った。

パキスタンは「民族浄化が起きている」と非難、インド大使追放など対抗措置を打ち出した。インドと領有権争いがある中国もインドを批判したが、モディ政権は「内政問題だ」と反論した。パキスタンの要請で国連安全保障理事会の非公開会合が開かれたが、各国の意見は一致せず、議長声明などは出せなかった。

南アジアでは、アフガニスタンで2001年以降「米史上最長の戦争」といわれる戦闘が続く。駐留米軍の早期撤退を目指すトランプ政権は、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンと和平協議を進めている。その行方はインド、パキスタンの力関係にも影響を与え、勢力図に変動をもたらす可能性が大きい。日本をはじめ各国は、緊張緩和を粘り強く働き掛けなければならない。

2019 年
 8 月 22 日 (木)

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