【論説】米国務長官訪中 危機管理は大国の責務だ

ブリンケン米国務長官が訪中し、習近平国家主席や王毅外相らと会談した。米中両国の対立は構造的で、利害対立も深刻だ。こうした状況では、誤解から衝突などが起きる懸念がある。双方が接触を密にすることは危機管理のために重要な意味があった。

ただ、すれ違いの感が強い会談であったことは否めない。ブリンケン氏は台湾海峡の安定の重要性を強調。中国は台湾問題を「越えてはならないレッドラインだ」と改めて強調し、台湾への武器支援の停止を要求した。さらに「中国の発展の権利を奪うな」と主張、半導体など先端技術での対中規制の撤回も求めた。

ブリンケン氏は帰国前の記者会見で、中国はロシアの武器製造に必要な物資の「最大の供給源」になっており、ロシアの軍事産業を支えていると指摘。「深刻な懸念」を伝達したと明らかにした。中国側から前向きな返答は得られなかったもようで依然溝は深い。

一方で、衝突回避のための意思疎通など危機管理の重要性で一致できたことは評価したい。

「対話のための対話」との声もあるが、米側は「対話こそ重要で、両国間で外相同士が往来すること自体が成果だ」と指摘する。中国側も同様だろう。

中国の偵察気球が米本土に飛来しブリンケン氏の訪中が延期された昨年2月ごろに比べ、米中関係は「まったく違う状況」(米政府高官)にまで好転している。今年4月には電話での首脳会談に続き、イエレン米財務長官が訪中し経済交流面で地固めに臨んだ。両国国防相のテレビ会談も行われた。

こうした積み重ねが誤解による衝突を防ぎ、信頼関係の構築につながることを期待したい。危機管理は、世界で1、2位を占める軍事大国の責務だ。

中国にとって米国は最大のライバルであり、米国主導の国際秩序に不満が強い。だが軍内の腐敗の深刻化や不動産不況による経済の悪化など国内事情もあり、当面は関係改善を望んでいる。

米国は11月に大統領選挙を控える。中国側には、民主党から共和党に政権が移っても、米中関係が迷走しないよう、対話の制度的枠組みを今のうちに構築しておきたいという狙いもあっただろう。バイデン政権側も対話継続の仕組みを求める思惑は同じはずだ。

米中関係では、日本の存在が重要度を増している。今回の米中対話に先立ち、岸田文雄首相が訪米。日米は軍事大国化する中国を念頭に在日米軍の体制を強化し、即応性を持たせる抑止力強化に大きく踏み出した。

米国が防衛負担の一端を同盟国に預けようとする潮流に合わせ、日本は他国のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有準備を進める。

しかし米国が描く東アジア安全保障の枠組みに一層深く組み込まれつつある日本に対し、中国は「危険な道を暴走している」(国営通信新華社)と危機感をあらわにしている。

地理的に中国と直接向き合う日本には、中国側の懸念をより正確に把握した上で、米国とは違うアプローチを編み出す知恵と努力が必要になる。

現時点で日本と中国の対話の仕組みは脆弱(ぜいじゃく)であり、民間交流なども活用した対話メカニズムを充実させるべきだ。